高度百八十センチメートルの晴天

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いつものようによく晴れた日だった。 勝時と浩太は午前中に畑の手伝いを終え、搭乗割のない午後は浜辺で過ごそうと話していた。 勝っちゃん、と前を歩く浩太が振り返り、いたずらを思いついた小さな子供のように口の端を持ち上げながら勝時に向かって言う。 「ねえ、勝っちゃん、おんぶしてよ!」 「は……?」 訝しげに眉根を寄せた勝時に近づいて浩太は続ける。 「だって勝っちゃん背高いじゃん。俺がその身長になるのはもう少し後になるけど、たまには上からの景色が見たいと思って」 ね、いいでしょ?と小首を傾げた浩太に勝時が勝てるはずもなく、ハイビスカスが咲き乱れる灌木の木立に「わーい!」という明るい声が響いたのであった。 「わー!高い!勝っちゃん背中広い!すごい!大人みたい!」 顔は見えないが大きな瞳をキラキラさせながらそう言っている浩太の表情がありありと思い浮かび勝時は小さく笑みをこぼしながら「馬鹿、暴れんなって」と弾みをつけて抱え直した。 そのまま自分よりも一回り近く体躯の小さな浩太を背負い、浜辺に向かって歩き出す。 鍛え上げた肉体では浩太の身体は羽のように軽く、もっと食わせなければと里心が湧き上がる。 「というか浩太。お前まだ身長伸びるつもりなのか」 勝時と浩太は同い年の二十歳だ。勝時が予科練に入る頃にはもうとっくに背丈は伸びきっており、軍に配属される際に測った身長は記憶にあるものから変わりなかった。 「何言ってんだよ勝っちゃん。伸びるに決まってるだろ」 だって俺は帝国海軍の航空機乗りだぞ!と浩太は自信満々に謎の理由を挙げる。本当に信じ切っているように思えたから勝時は「そうか」とだけ返事をすることにした。 「おい見ろよ。また柴がお守りしてるぞ」 浩太を背負い浜辺へ向かう道の途中、すれ違う奴らが苦笑しながら口々にそう言うのが聞こえる。 浩太が「いいだろー!」と舌を出す様はまるで子供だ。 柴も大変だな、という哀れみか慰めかその両方か。そんな言葉を掛けられながら仕方がない風を装って、その実浩太よりも喜んでいるのは勝時の方だ。 今この瞬間、勝時だけが浩太を独占している。そして、流星に乗れば空の上ですら浩太を独り占めできるのだ。 それは他の誰にも渡さない、勝時だけの特別な場所だ。 俺も大概だな……。と胸中でほんのり憂う勝時のことなど露知らず、浩太は晴天を映したような笑顔をはじけさせている。 蒼い空には味方の零戦が白い飛行機雲を引き連れ飛んでいた。 よく晴れたいつもの一日だった。
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