ずっと欲しかったもの

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例えばどんな航空機も整備できる程の類稀なる技量。例えばどんな故障も直すことができる一流の工具。例えばどんな搭乗員も素直に従ってくれる程の人間性。 漠然と欲しいものなら沢山ある。ここは内地でないから尚更、上手い酒や煙草、新鮮な魚や牛の肉、並々と湯を張った熱い風呂、畳の上に敷かれた柔らかい綿布団。 考え出したらきりがない。 けれど、よくよく自分の心に問いかけてみると、本当に欲しかったものはもう、この腕の中にいる。 「傷、残っちゃったな……」 一斉の両の目蓋に大きく刻まれた傷痕にそっと口付けると、腕の中の一斉が小さく身動いだ。 「……馬鹿。そんな、キザなことすんな」 恥ずかしいだろ。と顔を赤らめる様が、初心なようで余計に可愛らしい。叶うことなら、このままずっと腕の中に閉じ込めてどこにも行けなくしたい。しかし自分たちのいる場所は南の最前線、常夏の戦場だ。 「そろそろ、だな……」 腕時計をチラ、と見て名残惜しげに身体を離すと一斉が鼻を摘んできた。ぐ、ともぎゅ、とも言えない声が喉奥で漏れ、咄嗟に恨みがましく視線を送ると、 「ほんとに馬鹿。そんな顔すんなよ。……絶対にお前のもとに帰ってくるから」 瞳の奥に静かに闘志を燃やし、誰よりも可愛い人が誰よりも逞しい誓いをくれる。 「ああ、わかった」 小さく頷きながらそう言うと、一斉は「よくできました」と言わんばかりに満足げな笑みをくれた。 一斉。お前の帰りを俺はずっとここで待っているから。だから、必ずこの腕の中に帰って来い。 欲しかったものは手に入れた。ならば俺はそれを生涯大切に守り抜いてみせよう。
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