本編

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「浦野耕作は、異例の事態であるが、死刑執行が1週間の間保留となっている。つまりこの1週間で真実を突き止めろということだ。奴の口から直接保管場所を聞き出す等して、何としても事件の再発を未然に防げ!」  捜査本部長の号令の元、浦野耕作の残した爆弾の捜索が始まった。手がかりを掴み、早急に事態の収拾を図るべく、大人数の捜査員が各警察署から動員された。捜査本部の捜査員らは、浦野の自宅などから押収した証拠品や自宅、実家周辺の再捜査の他、浦野本人への聞き取り調査を展開し、一刻も早い爆弾の発見に向けて動き出していた。  しかし、数日経っても手がかりは得られなかった。 「浦野ォ!お前の爆弾はどこだ!?答えろ!」  荒々しい語気で凄みをかける捜査員。大人数の捜査員から鋭い視線を浴びつつも、浦野本人はそれに物怖じせず、いつものように鼻歌を口ずさむくらいには飄々としていた。ある捜査員が歌うなと怒鳴りつけると、浦野はその捜査員を睨み付けつつ、小さくため息をついて歌うのをやめた。が、彼はその後にこう付け加えた。 「あぁ、あまり私に指図しないでね。あれこれ指図されるのは、あまり好きではないんだ。気分を害されたと思って、より一層喋らなくなるかもよ?」  捜査員らの苛立ちは頂点に達していたが、冷静さを欠いて一度彼に襲いかかろうものなら、確実に証言は得られなくなる。そう考え、怒りを無理やりでも押さえつけて何としても証言を得ようとしていた。しかし聞き出すための手立てはもう無く、彼の気まぐれに委ねる他の道は無いような状況だった。せめて、証拠品や自宅、実家の再捜査で何らかの発見があればと、藁にもすがる思いであった。  必死な捜査員らの姿を見て、浦野は一人ほくそ笑んでいる。いつ見ても気味の悪い表情だ。捜査員らを嘲り、まるで玩具で遊ぶかのように捜査員らを意のままに振り回す浦野の姿は、いつにも増して恐ろしいものであり同じ人間には見えなかった。もはや人の皮を被った魔物である。僅か一週間の間に、この人の姿を持った魔物と闘って無事に爆弾の在処を見つけなければならなかった。 「何か見つかったか!?」 「いえ、なにも――」 「くそっ!どこに隠してやがる!?」  自宅や実家を捜索する捜査員達にも焦りの色は現れていた。急遽死刑を保留することとなったとはいえ、その期間はとても短い。例え捜査がうまくいかなくても、期間が過ぎれば確実に刑が執行されることとなっている。刑が執行されてしまえば、もう手がかりを得ることは不可能となるだろう。  この日は気温30度を超す真夏日であった。暑さのせいなのか、緊迫感のせいか分からない汗が捜査員達の額に垂れる。証拠物件として逮捕当時のまま遺されていた浦野の自宅では、8畳ほどの部屋を午前中から多数の捜査員が荷物を抱えたりしながら出入りしており、怪訝に思った近隣住民らがアパートを取り囲むように見つめていた。 「だいたい、本当にあるんですか?それ」  部屋の中にいる捜査員の一人が、腹立たしさを滲み出して口走った。その途端、中にいる捜査員全員の手がピタリと止まってしまった。  実際、かの捜査員が言うように件の爆弾の実在は真偽不明である。死に際のデマの可能性だって否定できない。黙々と捜索し続けていた他の捜査員達もそれは理解できていたが、口に出してしまえば己らの行動が無意味なものにしか見えなくなり捜査に支障を来すと考え、心の内に留めていたのだった。“実在してほしくない、しかし見つかって欲しい”そう思いながら捜索を進めていたが、ついに我慢の限界が来た人間が現れだした。  現場の混乱を抑えるべく、捜査指揮をとる刑事が声を張り上げた。 「“爆弾がある”から捜査をしてるんじゃない。“あるかないかをハッキリする”ために捜査してるんだ。あってもなくてもそれが真実なのだ」  啓発されハッとした捜査員らは静かに顔を見合わせると、そうだそうだと互いに納得しあい、再び捜査に戻っていった。現場の混乱はとりあえず収まったようだが、捜査員らの焦りと疲労は限界に達しているのだと刑事は悟った。  捜査開始から5日ほどが経過したが、手がかりは全く得られなかった。
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