【掌編】ビーバーの巣

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 ……そうか。私がいつもの癖で、脱いだ靴を足先まできっちりそろえて並べている隙に、彼女は革靴を脱いで寝室から飛び出し、無音で廊下を走り抜けてリビングに身を潜めた。そして、アップルウォッチでiPhoneを遠隔操作して音楽を鳴らし、私が気を取られている間にクローゼットに入って、悠々と着替えて縛られているフリをしたのだ。  完膚なきまでに敗北した私は、負けたペナルティとして回転しない寿司をごちそうすることになった。 「Grata Retroってどういう意味?」  5貫目のウニを注文して、うきうき顔で待っている彼女に聞いた。 「おかえり」  彼女は私にそう耳打ちして、握りたてのウニをすばやくほおばるのだった。 fin
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