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寝室は真っ暗で何も見えなかった。電気をつけたとき、私は困惑した。先ほど飛び込んだはずの怪人の姿が影も形もなかったからだ。
「ええ!?」
なぜ怪人が消えてしまったのか、トリックはまったくわからなかった。4畳ほどの狭い寝室には、隠れられる場所がほとんどない。狭い押し入れを覗いたり、カーテンの陰を確かめたりしたが誰もいなかった。
「ふっ、謎はすべて解けた」
とある漫画の探偵役の声真似をしてみたが、どの方向からもツッコミはこなかった。はっと気づいて天井を仰ぎ見たが、蛍光灯が冷たく見つめ返してくるだけだった。やはり、部屋には誰もいないのだろうか。
呆然としていたら急に寝室の外から音楽が響いてきた。
リビングに駆け込むと、オペラ座の怪人のテーマ『The Phantom of the Opera』が大音量で流れていた。音源は、テレビの横に置いてある彼女のピンク色のiPhoneだった。
聞き覚えのある音楽にしばらく聞き入っていたが、イントロが終わったところで近所迷惑だということに気づき、慌てて音量を絞った。音楽が小さくなると、クローゼットからなにやらゴトゴトと音が聞こえてきた。
私は恐る恐る近づいて、その両開きの折れ戸を開けた。
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