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第百八話 魔法構造体
───夜の湖沼から村へと帰って来た黒の一行。彼らは村の中に
ある自分たちの住まい。仮住まいとしている民家の一つへ入り、
家に明かりが灯る。村の中心、明かりの灯る数少ない家の一つ。
湖沼から帰った私達は、未だ夕食時で盛り上がっているキッチン
へと立ち寄り、ニコやオディ少年らへ食事のお礼を伝え借物を返
却。その後自宅で荷物を置いては。
「水は……溜まってるな。よしよし」
現在家の裏に仮設された、シャワー小屋側で待機して居た。
焼かれてしまった元自宅の跡地からは、石材故に焼けずに残って
いた石碑を回収し、簡素な小屋をメンヒの大工と我が村の大工達
の交流、技術経験値稼ぎと称しては、仮設のシャワー小屋を作っ
てもらっていた。仮設なので前よりも作りはお粗末で広さも無い
が、それでもシャワー浴びられる事を二人の娘は喜んでくれた。
「(悪魔っ子や少年もたまに浴びに来ていると聞いたっけか)」
シャワーが好評でなによりだ。作りの方も前とは違うし、物珍し
さ持ったかも知れない。
違う点の一つつとして、小屋の外に置かれた貯水タンク。中には
回転式のポンプ。流石にポンプを一から作るのは難しいが、この
異世界、片田舎にもポンプの一つや二つは置いてあった。なので
それら分解。組み直しの過程をヘて理解した構造を利用し、組み
直し段階で手動部分を外し、中身だけをこの大樽の中へ組み込ん
だのが、試作貯水タンク。勿論ただポンプを押し込んだだけの物
では無い。
タンクを点検し問題も無いと判断した私は小屋の中へ。
「起動してもいいよ」
「「はーい!」」
中へ合図を送ると元気の良い返事が帰ってきては、側のタンクの
中から駆動音が響き始める。中では貯められた水が回転式ポンプ
の圧力で押し出され、小屋の中へと続く布製ホース通っているの
だろう。それだけではただの雨水だが、タンクの底にはドワーフ
から交渉で譲ってもらった鉄板が仕込んである。仕込まれた鉄板
には私が火の基礎魔法の中身を書き換え、改造し。魔力を消費し
て熱を発し続ける魔法を刻印してある。勿論ポンプの方も魔力で
動いている。
ポンプ、鉄板、それらの魔法は小屋の中に置かれた制御台、石碑
から魔力供給を受け起動し。水をお湯に、お湯を小屋の中へと言
う、そんな魔法的仕組み。
「これも抽出した原典から新たに派生させたモノ
で?」
話し掛けてきたのはドロテア。眼鏡を駆けた彼女は興味深げに大
樽を見詰めている。
「ええ。火の基礎魔法と風の基礎魔法。その二つの原典から派生さ
せた魔法を使ってますよ。これもドロテアさんが控えを取ってお
いてくれたお陰です」
「非常に残念な事に全部ではないですけどね。それに、“原典”に
気が付いたのは貴方ですけどね。うひッ!」
イリサが元々持っていた数冊の魔法の本。それらには基礎とされ
ている火、水、風と言った魔法の事が記されていた。残念ながら
それらは焼かれた我が家と運命を共にし、既に灰となってしまっ
ている。だが、このドロテアが控えとして内容でもある魔法をク
リスタルへ、そして読み物として紙へ写しを残していたのだ。
全部、と言う訳では無いがそれでも全消失よりはずっとマシだろ
う。不完全で、急ごしらえで移されたそれら、無秩序な様はまる
でスパゲッティコード。そんな難解なモノ整理していると私はふ
と気が付いた。複数の火の魔法の中、論理魔法を解体した更に
奥、あらゆる火の魔法が収斂する、紐解けば必ず辿り着く一つの
領域。そこから全ての火の魔法は派生に派生を重ねていると。
火の魔法の特質であり本質、それは“熱”だ。
この異世界で学んだ属性の基礎魔法にはそれぞれ特質、性質、本
質の様なモノが存在し。私はそれらを“原典”と名付けた。既に
何処かでは発見されてる事かも知れないが、ドロテアが知らなか
ったので適当に付けさせてもらった。
「原典発見は魔法歴史に残る大偉業でしょうね。その様な魔法文化
体系が形成されて無い今には失望しかありませんけど。魔法の改
造や改修、新魔法を作り出すのに苦労しだした矢先でしたから、
原典の発見、利用はとてつもない事ですよ、ええ。ええ、え
え!」
「ええ。お陰で魔法詰まっていた研究も進む兆しが見えましたね。
それに原典発見のきっかけはドロテアさんでもある訳ですから、
私だけでなく貴方も褒められるべきでしょうね。素晴らしい働き
ですよ、ドロテアさん」
「………(歪な笑みを浮かべる女性)」
「(女性に対し失礼だとは思うが、うわあ。って感じだ。あれでは
喜んでるのかどうかすら分からん。そもそも笑顔か?あれ)」
魔法の研究をしていて薄々その様なものの存在には気が付いてい
た。と言うのも魔法を改良してくと、より強く便利な魔法に上が
って行く程に魔法自体に恒常性、今の形を維持しようとする抵抗
力の様なモノが発生してしまう。これが正当な改良、進化である
なら問題ないのだが、例えば発火の魔法を氷結の魔法にだなんて
改造してみようものなら、大きな抵抗力に阻まれ上手く行かない
だろう。しかしただの発火から火炎放射の様にできないかと試み
れば、抵抗力は小さい。この抵抗力大きく無視して魔法を作り出
そうものなら、魔法と魔力に拒否反応が生まれ大惨事が待ってい
る。簡単に言えば爆破、暴発しかねない。普通の爆発なら良いの
だが、臨界状態の論理魔法が引き起こす事態はもっと恐ろしい物
になるだろう。
なので現在私の魔法研究はこの抵抗力とどう付き合っていく、そ
う言った段階にあり。そして魔法の恒常性と上手く付き合うコツ
が原典だ。この原典を糸口にすれば派生、改良がスムーズに進
む。属性違いは流石に無理だが、同じ属性内、或いは属性の掛け
合わせ等が可能になる。
魔法の中身をパース、建築設計図の様に見れるようになり。また
複数の魔法を整理すると言う地獄の作業のお陰で、この原典と言
う存在に気が付けた。
結果魔法改良、改造作業は一掃の捗りをみせ、鉄板に新たな火の
魔法。原典を研究解体して取り出した性質、熱を利用した魔法。
ポンプには風の魔法、原典を研究解体して取り出した性質、“動
を”を利用した魔法を、それぞれを刻印として焼き付け魔力で動
かしている。
この二つ、ポンプの方も鉄板も初動にだけ魔力を多く使い、その
後は回りだした遠心力や、熱された事で高温と化した鉄と水。変
化した環境を利用し魔法の持続発動コスト大きく下げる設計。
指向性魔力もある程度離れた場所へ飛ばす事ができる事は既に実
験済みなので、この様な近場の仕掛けならある程度動かす事がで
きるしな。
魔法と素材を生かした効率的魔法の運用の、モデルケースと言え
ようか。とはいえまだまだ改善の余地沢山ありそうだ。新たな道
ができると同時に発見される課題。
「アンラさんが作り上げた新理論、新開拓のこの魔法技術はできる
事が多く拡張性も素晴らしいの一言。でも常に最適化や進化を求
められますねぇ。正に新体系の悩み。フッヒ」
「そうですね。常に改善改良が必要って考えると……」
“科学”を“魔法”に置き換えた考えが出てくる。が、今口にし
ても理解されないだろう概念、認識だな。ここでは黙っておこ
う。
「ああでも前のクリスタルみたいにこっちも劣化してしまうのでし
ょうかねぇ?」
「その問題か」
ドロテアが今言った事は、前のシャワー小屋跡地で見つかったク
リスタルの事だ。シャワー室で雨のようにお湯を降らす魔法、そ
れを記録したクリスタルは、回収した時には既に黒ずみひび割
れ、単独起動させてみたら砕け散ってしまったのだ。
「クリスタルは殆どの魔法に適正を持っているが、複雑な魔法の発
動は劣化を招き、結果的に回数制限がついて限界を超えると素材
諸共崩壊を引き起こす、か。
解決策として考えるてるのは魔法から触媒への負担軽減措置。そ
れとクリスタル化の元を石以外にしてみるとかですかね。鉱石の
類をクリスタル化して見たいと思っていたし」
「崩壊したクリスタルを見てもう底まで考えておいでとは。鉱石の
クリスタル化実験にはぜひぜひ同席させてくだしあいね?」
「(くだしあいね? 呂律大丈夫なのか、この人)」
此方を覗き込むドロテアを押しのけ。
「イリサ。リベルテ。お湯は出てるかい?」
「出てるー!」
「出てますー!」
中からはその他に『あの雨みたいなのも良かったのよねー』や
『でも此方の方が小回りがききますよ?』何て二人の声が僅かに聞
こえる。私も前の仕様のシャワーの方が自分も好きだが、あれは
魔力消費も恐ろしく高かった。それこそタンク役としたクリスタ
ルではまかないきれない程に。比べて今回の方は燃費改善がとて
も上手く行っている。雨水とか使うしな。
こう言う研究開発は最初に作る物、プロトタイプは得てしてスー
パーカーの様に成ってしまいがちだ。そこから伸びる分野を研究
へと切り離し、残った部分で最適化を繰り返す。そうして落とし
所を模索して行けば、大抵が手頃な技術へと成っている。
最適化と修正。研究と進歩。どれも魔法絡みとなれば、実に愉快
な取り組みである。
「お湯が出るなら問題ないな。それじゃあ私は隣の家に居るから、
何かあれば呼びに来るようにね」
「「はーい! 行ってらっしゃーい」」
『!』
「ああクロドア羽を此処では───」
「にゅあ?! 目に、目に水跳ねた───」
何とも楽しそうだ。
二人の返事を聞いた私は、樽を解体して中身の動作確認をしたが
っているドロテアを目で牽制し。彼女と共に隣の家へと向かう。
隣と言っても田舎町の様な、と言うか町から見れば此処は間違い
なくど田舎。そのど田舎では家の間隔はいい塩梅で適当な物。な
ので近かったり遠かったりとしており、ドロテアの家は少し離れ
ている。
家とは呼んでいるし人も住んではいるが、現状は家と言うよりも
研究の場に近い扱い、認識だ。
「あああ早く工房へ戻り、こここここれの研究を進めたいぃぃです
ね!」
「そうですね(だから呂律が大分怪しいぞ)」
手にした青白く発光するクリスタルへ頬ずりして呟く彼女。どう
やら本人も家と言うより工房として認識しているらしい。
「(工房、工房か)」
研究所と呼ぶにはしっくり来ない感じがこの作業にはあった。か
と言って本当か嘘か怪しい彼女の話し、それに出てきた秘密組織
の名、確かアナグラとか言うそれ。私とやっている事が同じなの
だが、そっちで呼ぶにもと思っていた所。
ふむふむ。今度作ろうと思っている施設には“工房”と付けるの
も一考かも知れないな。ふ。
「しかし魔法適正物の模索とは相変わらず良い考え、発想ですね」
「(また急に話題を振ってくるなぁ)」
クリスタルへ頬ずりの状態から突如冷静な面持ちで質問を飛ばし
てくる彼女。嫌な慣れだと思いつつ。
「魔法発動の負担軽減策としては勿論。複雑で強大な魔法を使うに
は何れは必要だろうと、ずっと考えてはいたんですけどね」
技術とは常に優れた一つだけで進歩してきた訳ではない。幾つも
の過程、派生、試みが新しく画期的なモノを生み出すのだ。
魔法とクリスタルだけで行ける場所に拘る必要なんて無い。もっ
と多くを利用し閃きを量産して、大いなる進歩得てこそ、魔法技
術だろう。
だからこそ新しい素材、魔法適正の高いアイテムをずっと探さね
ばと頭の片隅では思っていた。思うだけに留めていた。だが。
「ずっと?」
「ええ。ゴーレム、短剣の失敗。魔法との相性、適正問題。魔法自
体のコスト等などの問題もそうですけど、それらはもっとずっと
時間を掛けて、ゆっくり解決して行けば良いと。そう考えていた
んです」
だが近々の出来事、事態が技術の急速的進歩を急かす。何処かの
誰かが『戦争とは技術を大きく進歩させる起爆剤』何て、そんな
ニュアンスの事を言っていた気がする。現状を思うに強ち間違い
では無いのだろう。最も、戦争と言う切迫を押し付けられて、進
歩が強制されると言う意味だろう。
技術進歩の為に戦争を仕掛ける愚かさは、私には存在していな
い。今の所は。
「なるほどなるほど。町、と言うか個人? に喧嘩を売ってしま
いましたからねぇ。事故に萎縮したのかそうでないのか。何れに
しても長く“放置”はしないでしょうから、備えて正解ですね。
私も進歩と進化を肌と頭で感じられて大興奮ですしぃ! うひ」
「……そうですね」
何方かと言えば此方は仕掛けられた被害者なのだが。まあ訂正し
ても聞いちゃいないだろう。そも気にもしてないだろうしな、こ
の女性は。現状を憂う様子も彼女に無いらしいし。所謂マッドサ
イエンティスト。そんな言葉が彼女には相応しく、思うたびに彼
女が犯罪者として扱われたのは寧ろ正解だったのでは? 何て考
えてしまう。
「でもでもでも、あんな凄い、いや凄いで言い切れない魔法が、ゴ
ーレムとか言う非生命活動生物を生み出してるのに、それでも貴
方にはあれが失敗作なのですね。
進歩技術の話を抜きでですが、アレなら力も抑止力も足り得るて
いると思うのですが?」
「(むむ)」
彼女は自分で気が付いているか分からんが、私が抑止力を作り出
そうと言う小さな目的を認識しているらしい。意識してか知らず
かの私的か分かり辛いな。まあきっと抑止力の部分はどうでも良
いのだろうさ。此方からも敢えて振れるようとは思わん。
なので特段触れずに会話を進めよう。
「あのゴーレムは失敗も失敗ですよ」
「前に話した自立? ってモノをしていないからで?」
「ええ。後はあの形が許せません。あれじゃあ拠点防衛もできるか
どうかと言う所。せめてもっと動ける足、小回りの効く個体など
を最低限目指したいものです。上半身だけしか組み上げられない
のはどうにもね。
鑑賞目的で言うならあの形も好きですよ。門番とかならまあ。
ですが今はより現実的な個体が欲しい所」
「なるほど。ですが形に関してはアレが現在実現可能な範囲の、そ
の最高基準でしたよね。彼処まで組み上げるのも大変だったの
に、更にと言うのは流石に難しい、現実的でないのでは?」
ゴーレム。私はこの異世界でゴーレムを作ってみた、と言うと凄
い事に聞こえるかも知れない。いや実際凄いかもな。だが冷静に
考え出来た物を見れば、魔力バカ食いで操縦者の必要な岩土をこ
ねた出来損ないだ。辛うじて腕っぽいものを形成してはいたが、
足は影も形も無い。しかもかなりゆっくりでしか動けず、移動範
囲も土の上だけ。土塊のバケモノとしてはギリギリ及第点だろう
が、ゴーレムでは無い。あんのは。
仕組みとしては論理魔法を魔法的設計図とし、刻印の施された岩
を素材として体を作り上げ、出来上がったモノを術者が動かす。
そんな魔法の一つ。なのだけど。
「魔法として命名すらしたくない程に、あれは未完成で不出来な失
敗魔法ですよ、本当に」
「そこまで言いますか、そこまで言いますか。うひひ!」
驚いているのか笑ってるのかどっちだ全く。
まあ彼女は知らないのだ。自分が知っているゴーレムを。だから
あれがどれ程遠いかも、出来損ないだとも分かるまい。やはりゲ
ームの様に上手くは作れない、等と諦めてたまるものか。
「そうだ。それもウィル・オ・ウィスプのお陰で解決できるのだか
ら。ククク」
「おや笑うなど珍しい……じゃなかった。
あれで?これが解決策? 吸収魔法書き換えの実験だとばかり。
ゴーレムとこれがどう繋がると? 何で?どうして?」
「ウィル・オ・ウィスプの正体は分かりませんが、魂の残滓と言う
のは何処でも聞くんですよね?」
頷くドロテア。気が付けば彼女の家の前。しかし家に入らず此方
に振り向き足を止める様子から、説明を先に聴きたいらしい。
この後彼女には大いに働いて貰う予定なので、ここは機嫌を取っ
て置くか。
「これがどの魂、かどうかは実際問題どうでも良い。まあできれば
ヒトの残滓だと都合が大変良いのですけどね。最悪他の生き物で
も構わないさ。
私が確かめたい事はコイツの、残滓に含まれる生き物の設計図な
んですから」
「……へぇ」
話す相手の目が、口がみるみると歪んて行く。惚ける、いや呆け
る相手にも構わず話を続けよう。考えを口に出す、と言うのは存
外楽しくもある。相手が大いに興味を示したりとすれば更に。
「論理魔法での設計図作りでは、言われた通りあれが現状の限界。
それと言うのも生き物の形、構造、動くための運動エネルギー分
配が複雑過ぎて、一からは到底組み上げられないからだ。だから
───」
「ウィル・オ・ウィスプ。魂の残滓から生物の、もも、元の生物の
構造を、設計図を覗き見て、それを論理魔法に組み替える、置き
換えるんだ! あああ“コピー”って事をするんですねぇ!?」
此処まで一緒に魔法を研究して来ただけはある。察しが良くて非
常に大助かりだ。
「ええその通りです。設計図さえ手に入れば後はどうとでも。
ああそれに、動き方そのモノや脳の動きを論理魔法に落とし込む
のも面白いだろうな。そうすれば、そう出来えば本当に行く行く
は……クク。これは楽しみだ」
「ふひ。事も無げに大それた事を言うのですね、貴方は」
「? まあ実際に生物の設計図が入ってる確証は無いのに、ちょっ
と先を見据えすぎましたか。まずはコレを開けて解体して組み直
して見ないと何とも。ですね」
「解体!残滓は残滓でも魂!そ、れ、を解体! いいいいですねえ
ええ!!」
自信満々に言い過ぎたかも知れない。でも魂の残滓だと散々言わ
れてるなら、生き物の設計図ぐらい入ってそうなモノだ。無かっ
たら無かったまあ。ウィル・オ・ウィスプにも使い道はあるだろ
う。そしてまたゴーレムとは別の戦力探しをするだけの事。
「魂を、残滓を、ひひひひひ。流石、ああああ流石私のののの──
─」
「(嬉しいのか楽しいのか知らないけど。呂律が怪しくなるのはち
ょっと気持ち悪いな。嫌悪、とまでは行かないが)」
「───ああああそうそうそう。勿論中を、ウィル・オ・ウィスプ
の中身を調べるのはわた、わたたたしにももも?」
「ええ。と言うかこの先は少しドロテアさんの方が作業が多くなっ
てしまうかも知れません。それでも良いでしょうか?」
「もっっっっっっっちろん!」
うーん。この人も凄い人だなぁ。結構濃い村人の中でも、また一
段濃い人だ。……こんなんばっかの村かぁ。何か嫌だな。
「頼りにしています」
「ええ。ええ、ええッ。はーいや、本当に発想力、と言うか思い付
きが色々超えてますね、ふひ」
説明に満足したらしい彼女が家の中へ。私もその後に続く。
「(危機を認識してからこうしてずっと備えてはいるが、平穏が続
けばそれが一番なんだがね)」
ゴーレムも本来は建築や採掘の助けを予定していた。魔法はイリ
サの生活を助ける為に注力したいと言うのに。全く。
黒の男は平穏を願い、纏わり付く争い事を憂いながら家の中へと
姿を消した───
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