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第百十一話 勝利条件
───黒の男とその娘は互いに穏やかな笑みを湛え、場違いな程
和やかな空気に包まれて居た。周りの人々が恐恐と二人を見詰め
て居ても、気が付かない程に。
何処の誰かから齎された情報の真偽は定かでないにしろ、事が真
であった時を考え動くべきだろう。
情報に依れば人間が、あの貴族に連なる者共がまたも村を訪れる
と言うではないか。しかも今度は明確に我々を滅ぼそうと、イリ
サの平穏を脅かすと。そう言う事らしい。最早驚異と言う可能性
の霧は晴れ、顕になったのは真の敵として他ならず。
愛するをどう守るか。平穏をどう取り戻すか。私が舵を取るべき
その方向が今決まった。愛する存在の信頼裏切らぬために、約束
を嘘にしないために。
敵と脅威の悉く、皆滅ぼしてしまおう。
「アンラさん、今なんて言ったの?」
リベルテのおずおずとした問い掛け。私は答えるべくイリサから
彼女へ向き直り。
「再三此方を襲い脅かして来た彼ら。それでも衝突を避け静かに守
ってきた我々に、彼らは構いもしない。小さかった脅威も膨れる
ばかり。ではもう、いっそ脅威その物を滅ぼしてしまった方が早
い。そう言いましたよ」
「「「……」」」
静かな暮らし。自給自足ができ、魔法と言う便利な力も持ってい
る。それに人間の目が厳しくあろうとこの森までは、私達の生活
圏までは脅かされていなかった。加えて人間にも善人、話せば分
かる者も多く、思ったほど異世界は絶望的でないと知れた。
だからこそ人間が多く住む町とのいざこざは、イリサの明るい将
来を考え避けたいと常に思い、行動もしてきた積りだ。
しかし。
どれだけ此方が衝突を避けたいと願い思っても、向こうはもう此
方を放って置いてくれないらしい。リベルテやメンヒの人間とは
違い敵意を明確とした者が相手だ。であれば、自分たちの安全を
確保するはそれらを、脅威には消えてもらう他にない。
「「「……」」」
気が付けば辺りのゴブリン達の姿多くなってきている。皆話を聞
きに集まってきたらしい。彼らにも、皆に意思を示しておくか。
「最初に襲って来たのは彼らで、手紙に依ればまたも我々の静かな
暮らしを脅かそうと、くだらん企てていると言う話し」
私が語るのをリベルテ達は黙って聞き、イリサはと言えば体を左
右に小さく揺らしていた。
「あれだけゴブリンを殺し。少しの報復で溜飲を僅かと押し留めて
やったと言うに、まだ此方に構うか。まだ血と争いを望むか」
話しながらこれまでの物事を頭で整理していると、村の安全を脅
かしてきた彼らの行いの数々に、沸々と怒りがこみ上げて来る。
何故自分はこんなにも急かされ脅かされねばならない? 何故こ
うもイリサとの一時を削られねばならんのだ!
「我が村と住人、メンヒにもこれ以上手を出さぬならそれで良いと
思っていた。この場所で非人間族の社会的立場が弱い、迫害差別
蔑視の対象であると言うのなら、人目を避け影に潜み静かに生き
るも仕方無しと、私はそう考えて居た。
だが彼らは我々の影に汚い足を踏み入れ、そればかりか我々を影
から引きずり出さんとするではないか。
良いだろう。影に潜むなと言うなら、平穏の為に戦うしかないと
言うなら、喜んで戦おうじゃないか!戦えば勝つのは我らなのだ
から!」
「「「ゴブブー!」」」
周りでゴブリン達が飛び跳ねている。
イリサとの穏やかな時間を削らされ、育てた村人を殺され親交を
温めている村にまでちょっかいを出されるなど。いよいよ我慢の
限界である。許容の限界である。不遜許せず。
「ほ、本気なのアンラさん?」
「勿論。避けて通るにも、耐え忍ぶにも既に町の脅威は大きく成り
すぎました。此処に至っては脅威を取り除く他に道は無いでしょ
う」
「……」
神妙面持ちのリベルテ。彼女は我々、ステリオンの住人で家族で
はあるが、やはり同族と争うと成れば引っかかる物があるのかも
知れない。だがまあ二度既に戦っているのだから心配いらないだ
ろう。なので今のリベルテには悪いが構わず、町から村へのちょ
っかいも後々対処するとして。一先ずは五日後に迫る“改め”と
やらが先だ。
っとその前に。
「すみません」
「………は! 俺、ですか?」
「ええ貴方です」
「へい何でしょう」
「そうですね……。まずこのステリオンはこれから町と、確か名前
はアブソーフルト?でしたっけ。其処と形はどうあれ争う事にな
るでしょう。今まで以上に明確に、政治的に。
そこでメンヒには総意として、ステリオンに付くのかアブソーフ
ルトに付くのか。はたまた中立の立場で静観を決めるのか。何れ
にせよメンヒとしての意向、総意を教えてもらいたいのです」
「……今俺にですかい!?」
「いえ。勿論メンヒへこの話を持ち帰り皆さんで話し合って決めて
ください。ステリオンとして、私としてはどれでも構いません。
ただし。期限は明日昼までとします。昼にステリオンからメンヒ
へ使いを出しますので、その時までに意向を固めておいてくださ
い」
「わか、わかりやした」
「急で申し訳ないですね」
「い、いえ。へへ」
疲れたように笑うメンヒの村人。
「此方も五日後には町からの敵対者を迎え撃たないと行けないもの
で。ご理解頂けると助かります」
「へい。なら早速村の皆へこの話をもってきます!」
そう言って彼は慌ててメンヒへと踵を返し走り出した。去る彼の
背を護衛役の、態々飛ばない飛竜が“ドタドタ”と彼を追い駆け
その場を去って行く。
後に残っているのはこの村の住人だけ。気が付けば人だかりには
タニアの姿も混じって居た。ふむ。
「さて。私はこの村と、住まう皆の生活を守るために町と戦う事を
決めた。住人であるゴブリン族の意向は如何かな?」
共同体の様に生活しているが、数で言えばゴブリンがこの村最大
の種族。彼らにもお伺いを立てるのが筋と言う物だろう。
私の問い掛けにゴブリン達の視線が一斉にタニアへ、現在の族長
へと注がれ。
「……ゴブリン族は、私達“ギ族”はアンラさんの意向に従うゴ
ブ!」
「「「ゴブ!」」」
タニアの後に周りのゴブリン達も同意を示す。ただ一人。
「……。………」
頭を抱え震える隻腕のゴブリンを除き。そんなゴブリン、友の姿
を見た少年が此方を見上げ。
「アンラさん!」
「うん?」
「ボ、ボクも戦います!」
「……は?」
意外な人物が名乗りを上げた。それはこの村に身を寄せている捨
て子の少年。彼の言葉に悪魔な少女が驚き威圧を含め少年へ異を
示すも。
「エファ。ボク達はもうこの村の住人で、村と友達を守るためには
戦わなくちゃいけない。そう思うんだ」
「子供が何大層な事言ってんの?ああ、もしかして殺されたいの?
剣も持てない矢も撃てない、おまけに魔法も無理。それで一体ど
うするって言うの?」
「分からない。でも、でも何かしたいんだ!」
「そんなのはあんたの年頃なら誰だって常に考えてる事よ。葛藤は
抱えて、無理な事は思うだけに留めときなさいよ。あんたは子供
らしくベッドで小さくなってれば良いの、子供は」
悪魔っ子な少女の言葉を受けた少年は、それでも震えるゴブリン
の前に立ち宣言を取り下げない。そんな少年へ視線を合わせ。
「君たちにはこの村へ住む事も居る事も許した。だが住人として認
めるかは正直決めかねていた。此方が決めてしまうには幼すぎる
しな」
「……はい」
彼らを村に置く理由は悪魔っ子の魔法が第一で、それと周りが反
発しなかったからだ。後はまあ子供を追い出し森で死なれでもし
たら後味が悪いからと言う。そんな大人として面倒を見ている程
度の、最低限でしかない。
「だが今の君の提案はこの村の住人として生きると言う、そう言う
選択になるが?」
「はい」
私は少年の前に立ち見下ろす。
「本当に意味が分かっているのかな? 選択の結果として君は今後
メンヒにも、そして仲間である人間が暮らす町にも逃げる事がで
きなくなると言う事だぞ?
メンヒは私との関係が深く、また敵対した君を町の人間が安安と
は受け入れてくれないだろう。最悪捕まって殺されるかも知れな
い」
「……」
「彼ら人間側からすればこの村など地図に乗せるべきも無く、私な
どは憚らず魔女と呼ばれるだろう。勿論メンヒの人間が込める敬
意など無くな。彼らの常識からすれば我らは悪の権化。その悪と
一緒でも良いと? まさか。無理をする必要はない、君は今まで
通りでも良いんだ」
幼い少年には今まで通り見て見ぬ振りでも構わないと、遠回しで
はあるが告げてみた。
少年はこの村を既に知り過ぎている。メンヒの様に外に身を置い
ておらず、中で多く過ごしてきた。私も把握しきれていない情報
を少年は既に握っているかも知れない。情報をある程度隠してい
る行商人でさえ知らない情報を。
村と家族の安全の為にも、素性の知れない少年を私は逃させな
い。逃げを選び逃走を図るならば、少々惜しくもあるが悪魔少女
共々ゴタゴタに巻き込ませ無き者とする他無い。
これは少年にとってのチャンス。彼が生き延びられるかどうかの
最後のチャンスだ。
「構いません。ボクは友達の為に戦います」
彼は生き残る方を、予想外にも此方側の立場を選んだ。ふむふ
む。
「良いだろう。異種族の友の為と言うその勇気、共に戦う事を認め
よう。君は今よりステリオンの住人だ」
私は見下ろす少年の目線まで体を屈め。
「ようこそステリオンヘ」
「! はい!」
「………ッチ」
「ふふ」
彼へ手を差し出し。少年が手を握る。隣では悪魔な少女が腕を組
み面白くないと言う具合に舌打ちを漏らす。少年の勇姿にはイリ
サも満足げな様子だ。
「オレも戦おう。この村の為に」
少年に続き更にと出て来たのはオークのヴィクトル。彼が明確に
戦うと言ったのはこれが初めてだったかも知れない。見た目と裏
腹に温厚そのものな彼に、土いじりが専門と成っている彼には留
守を任せるばかりだったからな。気が付けば彼の足元にはコスタ
スの姿もあり。
「「「……」」」
ニコを庇うようにコスタスとオディ少年、そしてヴィクトルが名
乗り出ている。序にあの夢魔の少女の姿も。
「(ほう。これは種を超えた友情、と言う奴だろうか?)」
何に綺麗を見出すかの違いはあれど、美しいモノ、綺麗なモノが
嫌いな者は居ないのだろう。少なくとも私はその例外では無い。
良い気分だ。綺麗なモノを見ると言うのは。
「……アタシもこの村の住人だからね、勿論戦うわ」
決意の瞳で言葉を発したのはリベルテ。
「あ。私は戦闘なんて到底無理なので応援だけで」
「アンタねぇ。その気になれば剣ぐらい持てるでしょ」
言いながら腰に下げていた剣をリベルテがドロテアへ無理やり握
らせると。“ガンッ”と言う音を立て剣が地面へ着く。両手で頑
張って見ても、切っ先が地面から持ち上がる様子は無い。
無表情、抑揚の一定な声でドロテアは。
「自分で言うのもアレですが、これは囮ぐらいにはなれそうです
ね」
「……悪かったわよ」
二人のやり取りに少しだけ場が和み。
「お父様。ステリオン、村の総意はこれで決まりましたね」
「「「……」」」
皆が見詰める。自分を。
「我らの平穏の為に、戦おう」
「「「ゴブブー!」」」
彼らに戦う事を宣言した───
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
───知らせを受けた夜。自宅の寝室でこれからの運びを考えて
いた。
「戦うと言ったものの、無策で挑むのは阿呆だろう」
何も戦争を起こしたい訳ではない。私が望んでいるのは勝利。勝
負の結果は重要で無く、最終的に望む方向。村の平穏へと物事を
運ばせなければ行けない。今度ばかりは失敗も中途半端も許され
ない、危機への対処。
狩りの事故と体裁は見繕えず完全なる反抗示す事になるだろう。
何時か打たれた楔を完全と引き抜くのだから。だとしても。
「折角此処まで育てた村人を、メンヒの交流と環境。全て捨てるの
もくれてやるのも惜しい。今や全てがイリサの幸せに繋がってい
るのだから」
腹立たしい。侵略者共が。
腹立たしい。侵略を許した自分が。
「あの、アンラさん」
「! リベルテさん。夜更けにどうしました?」
リビングで憤慨をする自分へ声を掛けて来たのはリベルテだっ
た。彼女は私の対面の席へ腰を下ろすと。
「今、ちょっと良いかしら?」
「ええ勿論」
「……」
促しても無言の彼女。はてさて一体どうしたと言うのか。
「町と、アブソーフルトと戦う、のよね?」
「そうなりますね」
何か言葉を繕おうかとも思ったが、どの様な形であれ事実は敵対
以外の何者でもない。それに半端に繕えば彼女の気分を害す、或
いは下手な誤解を招きそうだ。
「その、さ。町を攻撃するとしてもね、住んでいるヒト達全てを根
絶やしにはしないで欲しいの!」
「(ん?)」
身を乗り出し言葉発する彼女は堰を切ったようにそのまま。
「町は残して、ヒトも残して欲しい。此処が今の家でも、あそこは
アタシの生まれた町ってだけかも知れないけど、けれどね!
ああそれに利用だってできるかも知れないでしょ? だから中途
半端何でも良い、あの町を廃墟にはしないで欲しいの!」
薄っすら涙を浮かべ言葉に詰まる彼女は。
「……お願い、します。あの町を、故郷を破壊しないで」
“がっくり”と項垂れ彼女は止まってしまう。うーん。これは困
った。泣きながら訴えてきた彼女に何と応えたものか。
女性に涙を流させると言うのは、精神や心が変異していようと堪
える物だな。ううーむ。
「あらあら。心配いりませんよ、リベルテ」
「「!」」
言葉は私とリベルテの中間。いつの間にか起きて来て居たイリサ
の物だった。常々思っていたが、イリサの足音は何と静かなもの
なのだろうか。
「(いや足音に限らず食事の時も静かなモノだったな。品が備わっ
てると言う事か)」
「昼間から何か悩んでいると思ってましたけど、その様な事で悩ん
でいらしたのですね。リベルテ」
「イリサ……」
そのままイリサはリベルテを見詰めがら私の側へと動き。
「お父さんはリベルテの故郷を破壊したりはしませんよ。ね?そ
うですよね?」
「……ホント?」
やつれた表情で此方を見上げるリベルテ。この一瞬でかそれとも
イリサが言うようにずっと考え悩んで来たのか。悲壮感漂う表情
を向けられてしまう。女性にこんな表情を、イリサの慕う人物に
こんな顔をさせては行けない。
朝に感じた心配をもっと分かりやすく解そうと、私は彼女の目を
真っ直ぐと見ては。
「町を滅ぼすだなんて、そんな積りは元々ありませんよ。そもそも
町に被害を齎す事は私の望みからも大きく外れているんです。
あの場所にはこれまで通り存在していて貰わないと困るぐらいで
す」
敵対すると言っても、脅威を滅ぼすと言うのもあくまで限定的な
範囲に留めたい。そうでなければ王都とか言う場所に援護を求め
られたしまうからな。それこそ、本当に戦争へとなってしまうで
はないか。
「滅ぼすのも町そのものではなく、あくまで此方を害す意志ある者
だけですよ。例えば首謀者らしきこのジャジダとか言う貴族、
これを対処して静かに成るならそれでお終いです」
「ホントにホント?」
「ええ約束します。私だってリベルテの故郷を滅ぼすだなんて、そ
んな事は考えもしませんでした。
町と争うとしても町へ直接破壊活動をするとか、そう言った意味
では無いんです。朝方は強い言葉を使ったのでその辺り誤解させ
てしまいましたね。申し訳ない」
「ううん! 誤解したのはアタシだから。そう、そっか。……そ
れなら良かった」
安堵の表情を浮かべるリベルテへ。そんなにも、そんなにもだろ
うかと思い。
「私はそれほど物騒、町を滅ぼす様に見えますかね?」
「え゛! いやその!ああああアンラさんのその、あの姿を見ち
ゃってるから!いや恐ろしい見た目だから言動もとかは思って
無いんだけど!」
「前に町へ行かねばならない時、リベルテはイリサへ『何時か案内
する』と約束していましたよね」
「え? あー……うん。出発間際言ったかも」
「イリサとリベルテが約束した場所を、私が壊す訳はありません
よ。何時かの為に町には町として在ってもらわねば困ります」
「アンラさん……」
よし。少しは物騒な私のイメージが払拭できてただろうか?
うーんしかし、あの姿を知っては仕方がないのかも知れない。そ
れでも紳士として振る舞ってきた積りなのだけどなぁ。
「くす。お父さんは優しいんですよ、リベルテ。慈悲を願ってもお
父さんは怒ったりしませんから」
「あ、あはは。ごめん、なさい」
「もう。そんなに謝らないでくださいそう。お父様はあの町を滅ぼ
したりしません───」
「そう。そうよね」
「───だって滅ぼすのでは無く“支配”するんですから」
「は?え?」
イリサの言葉に私も驚きだ。
「ふふ、リベルテ。お父様はとっても優しいから、だから慈しみを
もって全てを支配するんです。間違いや道に迷うと言うのは誰し
もが犯してしまう事。けれど許しの機会と言うのもまた、誰にで
も与えられるべきモノですから。ヒトはそれを慈悲と言って──
─その時、見いだされるのでしょう?救いを、信仰を。信ずるべ
きは何かを」
「……(絶句のリベルテ)」
「それに破壊も滅びも、支配の中にある事一つに過ぎません。だか
らお父様が必ずしも全て滅ぼすだなんて、そんな事はありません
よ。
ね?そうですよね? お父様!」
「そ、そーう、かもね。うん(そうだったのかなぁ)」
私へ同意を求める娘の弾むような笑顔を、艶やかに光る瞳を曇ら
せたく無かった私は肯定する事に。しかし補足をして置こう。
今のイリサの言葉そのままでは無いが、今の言葉で思った事もあ
るしな。支配、いや利用か。
「町とはこの争いに如何様であろうと決着を着け、その上で救援要
請を出させない状況が理想。結果、支配が必要と成れば支配もす
るかも知れませんね」
支配の形は別に頂点に立つ事だけではない。色々な手段が存在し
ている。選択肢としてそれらが無いとは言い切らない。此処で
は。
「……分かったわ」
リベルテの表情はやつれたものから決意の表情へと代わり。
「アンラさんにもう一つだけお願いがあるの」
「なんでしょう?」
「ヒトが死ぬのはもう仕方ないかも知れない。けれどそれでも、そ
れでもアタシに、私に五日後の戦い。それを任せて欲しい!」
「まあ」
「ほう」
赤毛の女性が真っ直ぐと此方を見詰め、戦う意思を見せる───
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