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プロローグ
───ランタンの明かりに照らされる室内。椅子に腰掛け机に向
かう男。机の上に置かれた、淡く発光している不思議な結晶板へ
と視線を落とす男性。彼は何やら考え込んでいる様子。
意識を外に置きながら、魔法の構造を視覚的に捉える為に作り出
された窓。結晶板へ視線を落として居た彼は、疲れから気紛れ
か。ふと視線を動かした。
「……(生物の身体構造問題。それを魔法でカバーしようとすれ
ば、今度は魔法の方で技術レベル的に問題が出て来てしまうな、
これは。
うーむ。実際に動かすとなると駆動、関節部分や可動域も考慮し
ないと行けないし、負荷過負荷も事前に試さないとだ。
考えれば考えるほどに、物理的にも魔法的にも問題だらけなんだ
な、このゴーレム作りは。
あんな状態で動いただけ奇跡だったか)」
視線の動いた先は部屋の隅。五つの石が積まれた場所を見遣って
は、一度だけ溜息を溢した。
「(数多の創作物の中で、遊んだVR空間とかでは結構簡単に動い
て居たんだけどなぁ。まあ当然と言えば当然だが、真似事、想像
に発想頼りだけで作っては難しい物があるよな。それに指向性魔
力の送受信の方も、まだ番地決め問題は解決してない。何れは自
動割り振り、距離何かで指定する規約、仕様も考えねばならぬ
し。
……取り敢えずこれが、問題解決の糸口になってくれると良いん
だけどなぁ)」
手にクリスタルを一つ持ち、頭で考えを煮詰まらせようと頑張る
彼の、その隣。
「…。……。………」
『……』
椅子の上で“うつらうつら”としている、金の髪を揺らす少女。
彼女の足元には黒いドラゴンがとぐろを巻いている。
「……ふ」
考え込んでいた黒の男は少女の様子を見ては小さな笑みを溢し、
席を立ち上がては慎重に少女を抱き上げる。
「え? あの、お父さん?」
「今日はもう終わったから。お家に帰ろうか」
「……はい」
眠そうにしていた少女は父と呼んだ男の話を聞き、彼にそのまま
身を預けた。
『?』
「……」
『!』
足元で寛いで居たドラゴンへ彼が顎を使い『付いて来い』と言っ
た仕草を見せると、ドラゴンは起き上がり一つ伸びをしては、男
の後へと続く。彼らはそうして静かに部屋を出て行く。
「……」
部屋には一人。結晶板からの光で、笑みを不気味な物としていた
女性だけを残し。
黒の男はそのまま家を出ては外を歩き出す。村の中は静かで、明
かりも殆どない。星と月明かりだけに照らされた村の道。
「(使われた痕跡が殆どないあっちで寝せても良いが、やはり自分
のベッドで寝させた方が良いのだろう)」
「……。………」
『! !!』
夜の村を少女を抱え歩く黒の男。彼はゆっくりと、静かな歩みで
進みながら。
「(この静けさ、この安らぎの夜)」
腕の中で寝息を立てる少女。その顔を見下ろし。
「(全て、全て守らねばならない)」
「……」
寝ぼけているのか、自分の胸に顔を擦り付ける少女。その少女へ
の決意を心の中で固め。
「(そうだ。守るために───)」
彼は少女から視線を村の外。深い森の何処かを見詰めていた──
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