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プロローグ
あれは橙色の空がとても美しい日の出来事だった。
暮れかけてきた中で帰ることもできずにいた。
私は一人、草っぱらに座り、背を丸めて隠れるように泣いていた。
「きみどうしたの?迷子?」
優しい声に顔をあげる。
赤みがかった髪の少年が立っていた。
彼はわずかに驚いてみせたがすぐに、ふわりと微笑んだ。
アーモンド型のクリッとしたエメラルド色の瞳が細くなる。
風が二人の間を吹き抜けて、少年の髪がなびく。
私は目を奪われた。
言葉を失いかけたがすぐに首を横に振った。
「違う」
「じゃあ、どうしたの?」
私より少し歳上だろうか。
落ち着いてみえる。
それでも身長差はあまりないようだ。
彼は隣に座る。それから顔を覗き込んできた。
恥ずかしさから顔を背ける。
小さく笑う気配がした。
「私が壊したわけじゃないんだ」
自然と言葉が口からこぼれていた。
「うん?」
「廊下に飾られていた花瓶。あれは私が落としたんじゃない。だけど誰も信じてくれなかった」
「違うならちゃんと言えばいい」
「だって!……だって私が廊下を走り回っていたのは皆が知っていることだから、だから信じてくれなかったわけで」
「それはどうだろう。信じてもらう前に逃げてきちゃったんじゃないの?」
「それは……うん」
ギュッと唇を噛みしめた。
「それなら帰って、自分は悪くないって証明しないと」
「信じてくれなかったら?……そう考えると怖いよ」
「大丈夫。きちんと話せば伝わるから」
「そう思う?」
「うん」
少年に元気づけられる。
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