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微かに馬のいななく声がする。
「あの子はきみの?」
少年が指差す方向には子馬のナッスルがいた。
また城の厩戸から抜け出してきちゃったんだ。
彼は私たちのところまでくると、ぶるる、と鼻を鳴らした。
「迎えにきたみたいだね」
「そうなの?ナッスル」
返事をするように鼻を手に擦りつけられる。
「あの……話を聞いてくれてありがとう」
「ううん。僕も気分転換に歩いていたから、話ができて良かったよ」
「何か悩んでいるの?今度は私が相談に乗るよ!」
ナッスルも鳴く。鬣を優しく撫でた。
子馬ながらに暴れもので手がつけられないナッスル。
そんな彼が私以外の人間の前でも、こんなに大人しくしているのは珍しい。
「それなんだけどーー今もう解決しそうかも」
「もう?!早いね!」
「うん。実は今日、婚約相手がいることを知らされたんだ」
「あなた、歳いくつなの?」
「僕?僕は十三歳だよ」
私より二つ上なんだな。
「オルキスは自由恋愛が許されている国なんだ。その婚約者が嫌なら断ることだって簡単にできる!」
「嫌というより、相手がどう思うのか不安だったんだ。彼女の誕生日会で一方的に遠くから見かけたことがあったぐらいだし。でも今日初めて話すことができた」
「そうなんだ」
「きみは僕のことどう思う?」
「優しくて美しい人。私があなたの婚約者なら間違いなく喜んでいる」
「美しいって……。でもそっか」
彼があまりにも嬉しそうに笑うから、とてもいい気分になる。
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