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彼はナッスルに触れる。
ナッスルが暴れたりしないかヒヤヒヤしていたけど、目を細めているところを見る限り、少年に気を許しているようだ。
それだけで、私も信用できてしまう。
「ナッスルっていうんだよね。ふふ。よろしく」
「彼がこんなに懐くなんて珍しいんだよ」
「それは嬉しいな」
私たちはナッスルも含めて他愛もない会話をした。
天気の話。明日の話。今日の夕食の話。
本当に他愛のない。
「ねえ。明日もここで会わない?」
暫くの会話が続いたあと、彼は言う。
最初にも思ったことがある。
彼の声は心地よい。
ずっと聞いていたいと思うほどに。
「いいよ。でも婚約者のことはいいの?」
「そのことも明日になったら話すよ。それにお互いにとって、きっといい日になる」
「そうなの?楽しみだな」
「約束だよ」
「うん。約束」
私たちは小指を絡めて約束を交わした。
「じゃあ、また明日」
「うん!」
あ。名前。聞きそびれちゃった。
私も名乗っていない。
そう思ったときには、少年は駆けていってしまっていた。
遠ざかっていく背中。
明日をすでに心待にしている自分。
それらが空の橙色に重なっていく。
そんな不思議な気持ちを抱いた。
ーーしかし約束が果たされることはなかった。
次の日、朝から原っぱにいたけれど夕暮れになっても彼は現れなかった。
それでもーー。
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