ゴミ屋敷のオッサン

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「座るところが無くてゴメンな。欲しい本があったら持っていけばいい」  俺は(とう)で出来たような壊れた箪笥の上に腰かけた。 「吉田さん、俺に国語を教えてくれないかな?大学に行くはずだったんだけど理由があって進学を諦めなくちゃいけないんだ。その間、国語の勉強をして、いい大学の文学部に行きたい」 「でも、こんなところじゃ教えられないよ」  吉田さんは肩を竦める。 「俺が片付けるのを手伝ってあげるよ」 「そうか。ゴミ屋敷だってことは分かってるんだが、出て行った妻のことを考えると何をする気もおきなかったんだ。そんな時、ゴミの中に本を見つけてね、廃版になっている本でどうしても欲しくなっちゃった。ゴミを持って帰るのは犯罪だと知ってるんだが、俺はお金も無かったし、どうせ燃やしてなくなるもんだろう。それを持って帰ったよ。それからだなあ。ゴミを持ち帰るようになったのは。捨てられないのも病気だ。それに出て行った妻がいる国の服も着てる。未練があるんだ。いや、おかしくなっちゃったんだ」  そうだったのか。家族をなくして職さえも無くなっちゃたんだから同情せざるを得ない。 「少しずつ部屋を整理しようよ。俺もさ、掃除はあまり好きじゃないんだけど、二人でやればどうにかなるよ」  俺はそう言って、近くにあった段ボールの山を見た。ブランドもののロゴが入ったものがあった。まさかとは思うが、お父さんが捨ててしまった段ボールではないだろうか。
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