ゴミ屋敷のオッサン

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 お母さんは肉じゃがを作っているようだ。お腹が空いているので、早くお父さんが帰ってくればいいのにと思うが、家族のために働いてくれているんだから感謝しなければいけない。お父さんは宅配業者で働いている。朝早くから遅くまで、帰っても不在通知を置いたお客さんから電話が来ることがある。色々な人がいるなと思って、以前「ゴミ屋敷みたいな家はある?」と訊いたら「あるよ」と返って来た。大学生くらいの男の子でも部屋にゴミ袋が積み上げてある人がいるのだそうだ。  俺の家はオープンキッチンだ。だからリビングの様子はキッチンからよく見える。俺がお笑い番組を観て笑っていると、お母さんが「来夢、お父さんが帰ってくる前に大事な話があるの」と言った。 「なに?」 「実はね、お母さん、押し入れに現金を貯めていたんだけど、それが無いの」 「えっ?」 「銀行に貯金しておけばよかったんだけどね、ホラ、世の中不景気で以前は銀行が危ないなんて噂もあったじゃない。私の利用している銀行が倒産することもあるかと思って押し入れに隠しておいたの。一千万は保証するって知ってたけど怖くて。それが無いの。ブランドのボストンバッグが入っていた段ボールの箱に新聞紙でくるんで入れておいたから、お父さんが捨てたのね。この前、押し入れの中にある要らないバッグを整理してたのを見たの。私のものは捨てないと思って放っておいたんだけどね。普通そうでしょう。でも、現金を押し入れなんかに入れておいた私が悪いんじゃない。お父さんを責められないし、言うことも出来ないの」  マジか。でも何で俺には話してくれたんだろう。
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