第4話 お茶のお供もやはり

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第4話 お茶のお供もやはり

朱色の建物が立ち並ぶ、ここはかつての日本の中心地-平城京跡地。 約1300年前に栄華を放った都の様子が今に再現され、地元民や県外から来る人達の目を楽しませている。 「ようこそ奈良へ(笑)!」 かなたがそんな観光地の最寄り駅へと着くと、パートナーはすでに全身ぶりぶりのピンクコーデに身を固めて待っていた。 これからコンビとして闘うファイターの正体は、去年近畿Aブロック代表として全国大会に出場した経験を持つスーパー中学生・多幸みあ。 いよいよ今日から2人は、地区予選に向けた練習を開始することになっていた。 彼女はさっそく小さなファイターの腕を取り、元気に自分の家へと歩きだす。 「ていうても、そこはおばさん夫婦がやっているケーキ屋さんでな、今年から兄貴がパティシエ見習いで修行してるん。うちはついでに来た居候!」 「みあちゃん、確か大坂出身やったね」 10分ぐらい駅から歩いて行くと、これまた頭からつま先までピンクで塗り固められた2階建ての家が見えてきた。 戸口には『ほーせき堂』という看板も見える。 「ただいま!」 店内に入ると、ケーキ屋独特の甘く幸せな香りが客人を出迎えてくれた。かなたはみあの叔母夫婦と挨拶をかわしてから、母・まりかから持たされたおらが村名産の漬物をお土産として渡す。 それから彼女に連れられ2階へ上がると、シャレた北側のテラスへと通され、まずはお茶会とシャレこむらしい。 クロスを引いたテーブル席が用意してあり、やがて食器がかすかに触れ合う音と共に、一人の青年が上がってきた。 「よう来たな、ゆっくりしてってや!」 名も名乗らずに、手にしているお盆からさっさとお茶やケーキを置いて行く。 短く刈った金髪、ふと袖から見える腕時計も、まがいものの金時計だ。この色を統一する傾向を見て、かなたはすぐにみあとの関係を悟った。 「もしかして」 「おっとすまん俺、みあの兄で多幸の(ひかる)ちゃん言うもんや!」 (失礼だが)ゴリラ顔に華麗なウィンクをパチンとし、パティシエはさっそく客人におやつを進めた。 「本日ご用意したのは県産の和紅茶に、私特製のチョコレートケーキです。ほれ、フォークで真っ二つにしてみ!」 「わ、中からもチョコレートが流れてくる!」 「『フォンダンショコラ』っちゅうやつや」 まだ専門学校を出たばかりだという光の焼き菓子だったが、その腕は十分,アツアツなチョコレートはやけど必至だったものの、それにもましてほっぺたが崩れ落ちるような甘さが食べている人を魅了した。 しばらくは(作った本人含め)3人とも、無言でその菓子を堪能していた。が、いち早く食べ終わった光が「さっそくだが」と切り出す。 「かなたくん、俺としりとりしよか」 「え」 「ただし、お菓子の名前限定でな!」 「うそ!」 そう、このパティシェもまたしりとりファイター! 聞けば先日の予選で妹に1回戦で蹴り落とされたようだが、その実力は油断ならないようだ。 「じゃあ、かなた→お兄の順な。はじめは勿論『フォンダンショコ』から!レッツしりとりファイト!」 みあが笑って合図をかける。 頭に糖分が行き渡る前にスタートフラグが振られ、例のごとく少年はうろたえた。 「ラ?ら…ら?」 「食パンに砂糖塗って焼いたやつあるやろ」 「あ、のっけからみあずるいぞ!」 「!!」 「全くしゃーないな…ずも(葛餅)!」 頭の中でデザートバイキングがはじまった。 しかし順調に取れているのは光だけで、まるでかなたの頭はついていけない。みあに促されて、ようやく出るくらいである。 「チーズケー」 「キ?!キ…」 「あるで、丸っこいやつ!」 「キ…キ… きゅうり…」
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