第5話 初タッグ! vs和歌山代表

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「おそらく彼女の手持ちの1つは『タヌキ』やね。けど、それをすぐ出してまうと、1つ不都合がある」 一方、観客席でもまりかが光に対して謎解きをしていた。 「不都合…あ、もしかして次の言葉」 「タヌキと来て大体日本人が次に連想するのは『キツネ』。”狸と狐の化かし合い”っていう(ことわざ)もあるし、この2つの動物は何かと双極で並べられることが多い。だから仮に最初にタヌキを取ってしまうと、次にキツネをかなたが拾ってしまい、回収不可になる可能性が高い」 「な~る,それであの姉ちゃん…。しかしそんなことがおわかりになるなんて、流石はまりかさん!」 「えーありがと~❤」 いきなりノリよくぶりっこぶる中年女性。しかし後半開始のチャイムが鳴ると、改めて腕を組み舞台を見つめた。 「ただホンマに彼女の回収対象が動物かについては、ちょっと謎やけどな」 「え?」 光はもう一度相手の顔を覗こうとしたが、すぐに暗闇に邪魔され見えなくなった。 奈良代表は再び台の前に構える。 みあはいつになく興奮していた。というのも、ミーティングの最後に後輩がすごい推理を披露したからである。 「完っ全に盲点やったわ。やっぱりアンタをパートナーに選んで良かった!」 「でもあってるかどうかは」 「あってても間違うてても、残り10分間で勝負がつく。こうなったら、一か八かの大一番!思い切って清水の舞台からバンジージャンピングや!」 和歌山代表は、なぜか互いに頬を真っ赤にさせている。 「姉ちゃん、ひどいや!僕は言うとおり、姉ちゃんの単語が取りやすいようなひらがなを出してやったのに、なんで拾ってくれないのさ!そのせいで僕は、まだ一個も文房具を拾えてない!」 「アホ、回収物を口に出すな!これからアシストしてやるから、泣くなうっとうしい!」 「泣いてんじゃないもん、怒ってるんだもん!」 2人が言い争いをしているうちに、再びファイト開始の笛がなった。 今度は流れが恭士郎→みあ→かなた→美友の順に流れる。 頭から湯気を出していた弟が若干遅れ気味に最初の攻撃『かごし(鹿児島)』を放ち、みあの手持ちをかすめたが外れ,逆に彼女は確実に『(松江)』を拾うと同時に、「え」のアシストを相棒へ行った。 今度こそ落ち着いて言葉を拾うかなた。 「」 しかし敵も負けていない。 「ンチョウまぐ」 “うっ、やられた。いや、まだまだ” 続いて弟「ブスー」 みあ「(鯛)」 かなた「」 姉「!」 弟「りが!」 み「」 か「ょく!」 再び語尾があがってしまったが、もう大丈夫だ。 まぐろだけは相手に食べられてしまったが、かなたの他の言葉は全て回収が完了した。それも出だし3ターンで取り終えてしまったのである! 名アシストを見せたみあが、手元で小さくグッドサインした。 “この戦いは2人で協力して行うバトル…!” ペアを組んだ時に言われたことが、改めて心に染みた。 “だったら、俺もみあを支えなきゃ” 流れが逆になった以上、彼女の単語を回収させてやるためのアシストを自分がすることはできない。 しかし、してやれることを精一杯やろうと少年は走り出した! “まず美友に『た』と『き』を渡さへんこと!それともう一つ” 「カレー」 「(かも)」 「山菜!」 まりかと光はこれに思わずハイタッチ。 「良かった、わかってた!」 「そう、たぬきときつね言うたら、何も動物だけやない!」 一方、相手に分野がバレたと悟った和歌山代表は、ここでメンタルの弱さが露呈した。 「ああ、もう終わりだよ…」 姉はすでに戦意喪失。自分の単語が回収不能になると知るやいなや、台に肘をついてはうなだれはじめた。 さらにそれを見た弟がいよいよ怒りはじめ、もう手がつけられない位にわめき散らす。 「何だよバカ!バカバカ!!」 最後の方は支離滅裂で、パンダ帽子ももはや場外へふっとんでいたが、審判が迷惑行為へのレッドカードを出す準備をしていた時に、ちょうど試合は終わった。 投映機が長いホールド状態の後、ようやく映し出した結果は- 奈良 8 対 和歌山 6 かなたとみあは思わず万歳!それから肩組み合って喜んだ。 2人の勝利を祝う会場の拍手も温かい。 他方、点数が出る前からその場で落胆していた和歌山代表は呆然とした様子で、その点差を眺めていた。 「以外と悪くなかった…」 そんな2人にみあがやって来て、一方的に握手しながら言う。 「この点差が何を表すか,それが分かった時にアンタらは強くなれる」 「え?」 「またいつかやろうな!」 どのファイターにも全力で向き合う。 みあはそういうスタンスの女の子なんだと、かなたは後ろから見ていて思った。 でも、今のは自分に向けて言われた言葉なのかもしれない。 少年もまたその言葉を胸にひっそりとしまったのであった。 その後2人は滋賀県代表を破った京都府代表と対戦,今度はかなたがみあをアシストし、お互い全ての単語を回収して相手を破った! これにかなたはもとい、パニクったのは母のまりかである。 「ゼンコク?全国大会??うそ待って、キャーやったあ!!!」 自分が踏めなかった決戦の地に息子が出場するということで、すぐに旦那や実家に連絡しまくる。 たくまは祝福スタンプをSNSで送ってきて、おばあちゃんは電話口で孫をほめちぎった。おじいちゃんは…わからないけどと、まりかは息子の頭をなでる。 「たぶん喜んでるよ」 「そうかな?」 「うん、絶対にね」 ひとまずこれにて彼等の地区大会は終了。 午後に行われる他2つのクラスの試合が終わった後、表彰式で正式に全国大会の出場資格証明書が授与される予定だ。 さて時計を見れば、すでに12時半。 道理でさっきからお腹の虫がうるさいわけである。 「何か美味しいもん食べにいくか!」 「賛成!」 「おばちゃんがお祝いに皆のおごってたるで。懐石料理以外で何食べたい?」 それはもちろん 「そば!」「うどん!」 「あれ分かれた?」 「“ん”がつくのは縁起よくないから、そばかなあと…」 「まあ、どっちでもええやん。行こ!」 スマホで検索すれば、九条ねぎを使った評判のお店が近くにあるという。 これはもう行くっきゃない。 4人はわくわくしながら、お昼へと向かって行った。
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