第6話 結成!近幾B代表チーム!

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続いてリテラーチャー決勝戦。 ただキャパシティの事情から対戦部屋への入室は出来ないため、皆その場でMOJIBAKEが移す映像を通して観戦する。 小さな畳の部屋に合い向かいあっているのは、和服姿のうら若き乙女達。 長い髪をしっかり結い上げている奈良代表は、みあも好きそうなピンク色の振袖を着ており、一方、肩ぐらいの黒髪をまっすぐ流している京都代表は、深緑色の着物にモカ色の袴をはいていた。 「ちゃうちゃう。“紅梅(こうばい)の”振袖や。こっちは萌葱(もえぎ)色の着物に、袴もモカやのうて、白橡(しろつるばみ)」 「え、まりかすごい!よく知ってるね」 「そらリテラーチャーはこんなん覚えな、勝ち抜けへんさかいね」 「え!」 まどうことない,この母親こそ十ウン年前にここ京都の地でリテラーチャー奈良代表として戦い、1回戦で涙を飲んだのだった。 そしてその経験者によれば、今我々が見ている試合は、古語で繋ぐしりとり『いにしえ繋ぎ』と呼ばれるものだということだ。 「はまを」 「」 「…ゅうろ」 「づち」 仮に4択にされても当てられない自信のある言葉ばかりが、粛々とつらなってしりとりされていく。 幸いにも未来人である我々のために、MOJIBAKEがそれぞれの言葉の解説を映してくれた。 ・浜荻(はまをぎ)-浜辺に生えている萩 ・御記(ぎょき)-天皇の日記 ・宮漏(きゅうろう)-宮中にあった水時計 「何それ?」 「ム、ムズい…」 また最後の『卯槌(うづち)』とは、正月の上の卯の日に、糸所から朝廷へ奉った槌のことだ。 「ね、これで納得やろ?」 「へえーそうなんや~って、わかるかあ!」 まりかのボケに、思わずノリツッコミするかなたとみあ…ん?2人? 「はあ~、なんとお可愛いらしい~❤」 いつの間にか試合を見ていた光の目からハートマークが飛び出している。 これに山野親子はドン引きし、妹は「マジもう、かたはらいたし!」と嘆く。 「うちの兄ちゃん、あの京都代表みたいな和風美人、すごくタイプなんや」 すると光の横に座っていた舞妓達が、はんなりと感嘆の声をささやいた。 「流石は、安国寺(あんこくじ)はんやなあ」 「ホンマ、お強いわあ」 「安国寺?」 その声にまりかが反応した。 昔自分が負けた相手の名にも、聞き慣れない名字がついていた気がしたからだ。 彼女はノロケている光の頭を押しのけ、舞妓達に話しかけてみる。 結果、とんでもない情報を掴むことに。 「へえ、安国寺はんは都を代表するお言葉繋ぎの旧家どす。ここらで名前を知らない人はおりまへん」 「やっぱり!じゃあ、うちが戦ったんは、おそらく彼女のお母様やろか」 「今のお穣様,あの袴をお召しになってはる方は(はるか)はんいうて、今年のリテラーチャー選手ランキングでは、全国1位やと思います」 「ぜ!!」 3人が絶句すると同時に、会場内から拍手が沸いた。 見れば話題の才女・安国寺遥が、凛とした表情で相手へ黙礼し席を立つところであった。 一方、残された奈良代表の女性は、溢れ出た悔し涙を指の先で拭っている。その様子をながめていたみあの観察眼は鋭い。 「あの人にとっては、今日がきっと大一番やったんや。せやから髪も綺麗にしてきたし、ええ振袖着てるし、こうしてネイルもばっちりや。けど遥ちゃんの姿は何も飾らない、質素な袴姿やった」 「そっか,彼女にとっては普通のこと,“勝って当たり前”ってことなんだ…」 「ちなみに昔の私もエラい着飾ってきたけどな…」 とんでもない人物を2人はメンバーに加えることになるのかもしれない。 「あとこの建物も、安国寺家の御心添えで建てられてます」 「え」 本当に、とんでもない人を。 全ての予選が終わり、各クラスの優勝者4人は、表彰式へと登壇した。 「ここに今年の近畿B代表チームが結成されることを、心からの喜びを持って歓迎いたします」 全国大会への切符となる賞状を渡してくれたのは、ことのは会館館長である安国寺家のご当主だ。ただ娘と違い、こちらはとてもフレンドリーに選手と握手を交わす。 「ノーマルクラス代表、山野かなたさん」 「はい!」 「同じくノーマル代表、多幸みあさん」 「はーい♪」 「サイエンス代表、数成翔也さん」 「よろしくな皆!」 「そして、まあ…今年も頑張ってきなさい」 「勿論です、お父様」 最後、会場は大きな拍手で4人を全国へと送り出した。 本大会は約1.5か月後の8月初旬より、1週間をかけ大阪と東京で開催される。 かなたのしりとりファイターとしての全国デビューは、もうまもなくだ!
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