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続いてリテラーチャー決勝戦。
ただキャパシティの事情から対戦部屋への入室は出来ないため、皆その場でMOJIBAKEが移す映像を通して観戦する。
小さな畳の部屋に合い向かいあっているのは、和服姿のうら若き乙女達。
長い髪をしっかり結い上げている奈良代表は、みあも好きそうなピンク色の振袖を着ており、一方、肩ぐらいの黒髪をまっすぐ流している京都代表は、深緑色の着物にモカ色の袴をはいていた。
「ちゃうちゃう。“紅梅の”振袖や。こっちは萌葱色の着物に、袴もモカやのうて、白橡」
「え、まりかすごい!よく知ってるね」
「そらリテラーチャーはこんなん覚えな、勝ち抜けへんさかいね」
「え!」
まどうことない,この母親こそ十ウン年前にここ京都の地でリテラーチャー奈良代表として戦い、1回戦で涙を飲んだのだった。
そしてその経験者によれば、今我々が見ている試合は、古語で繋ぐしりとり『いにしえ繋ぎ』と呼ばれるものだということだ。
「はまをぎ」
「ぎょき」
「…きゅうろう」
「うづち」
仮に4択にされても当てられない自信のある言葉ばかりが、粛々とつらなってしりとりされていく。
幸いにも未来人である我々のために、MOJIBAKEがそれぞれの言葉の解説を映してくれた。
・浜荻-浜辺に生えている萩
・御記-天皇の日記
・宮漏-宮中にあった水時計
「何それ?」
「ム、ムズい…」
また最後の『卯槌』とは、正月の上の卯の日に、糸所から朝廷へ奉った槌のことだ。
「ね、これで納得やろ?」
「へえーそうなんや~って、わかるかあ!」
まりかのボケに、思わずノリツッコミするかなたとみあ…ん?2人?
「はあ~、なんとお可愛いらしい~❤」
いつの間にか試合を見ていた光の目からハートマークが飛び出している。
これに山野親子はドン引きし、妹は「マジもう、かたはらいたし!」と嘆く。
「うちの兄ちゃん、あの京都代表みたいな和風美人、すごくタイプなんや」
すると光の横に座っていた舞妓達が、はんなりと感嘆の声をささやいた。
「流石は、安国寺はんやなあ」
「ホンマ、お強いわあ」
「安国寺?」
その声にまりかが反応した。
昔自分が負けた相手の名にも、聞き慣れない名字がついていた気がしたからだ。
彼女はノロケている光の頭を押しのけ、舞妓達に話しかけてみる。
結果、とんでもない情報を掴むことに。
「へえ、安国寺はんは都を代表するお言葉繋ぎの旧家どす。ここらで名前を知らない人はおりまへん」
「やっぱり!じゃあ、うちが戦ったんは、おそらく彼女のお母様やろか」
「今のお穣様,あの袴をお召しになってはる方は遥はんいうて、今年のリテラーチャー選手ランキングでは、全国1位やと思います」
「ぜ!!」
3人が絶句すると同時に、会場内から拍手が沸いた。
見れば話題の才女・安国寺遥が、凛とした表情で相手へ黙礼し席を立つところであった。
一方、残された奈良代表の女性は、溢れ出た悔し涙を指の先で拭っている。その様子をながめていたみあの観察眼は鋭い。
「あの人にとっては、今日がきっと大一番やったんや。せやから髪も綺麗にしてきたし、ええ振袖着てるし、こうしてネイルもばっちりや。けど遥ちゃんの姿は何も飾らない、質素な袴姿やった」
「そっか,彼女にとっては普通のこと,“勝って当たり前”ってことなんだ…」
「ちなみに昔の私もエラい着飾ってきたけどな…」
とんでもない人物を2人はメンバーに加えることになるのかもしれない。
「あとこの建物も、安国寺家の御心添えで建てられてます」
「え」
本当に、とんでもない人を。
全ての予選が終わり、各クラスの優勝者4人は、表彰式へと登壇した。
「ここに今年の近畿B代表チームが結成されることを、心からの喜びを持って歓迎いたします」
全国大会への切符となる賞状を渡してくれたのは、ことのは会館館長である安国寺家のご当主だ。ただ娘と違い、こちらはとてもフレンドリーに選手と握手を交わす。
「ノーマルクラス代表、山野かなたさん」
「はい!」
「同じくノーマル代表、多幸みあさん」
「はーい♪」
「サイエンス代表、数成翔也さん」
「よろしくな皆!」
「そして、まあ…今年も頑張ってきなさい」
「勿論です、お父様」
最後、会場は大きな拍手で4人を全国へと送り出した。
本大会は約1.5か月後の8月初旬より、1週間をかけ大阪と東京で開催される。
かなたのしりとりファイターとしての全国デビューは、もうまもなくだ!
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