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チャイムと同時に一目散に教室を出ては、家へと戻った。
ランドセルを放りだしてはノートだけを持ち、おっと今日は雨予報だ,傘立てに置いてあった2本をむんずと掴み、再び外へと飛び出していく。
「えっほ、ほいほ」
新緑の田畑広がる中をひたすら走り、彼がやって来たのは田舎駅近くにある、蔦に埋もれた我らが市立公民館。
入口を通り、まず先に向かったのは併設されている図書室だ。
お目当ては多種豊富な図鑑類や辞書類。
花や虫等のメジャーな種類はもちろんのこと、他にもネジ事典や漢方薬事典なんていう、その道にいる人しか読まなそうなものもあるから、見ていて飽きない。
もとい学校の休み時間でも、大好きな社会科の地図帳をくまなく眺めている少年である。自分が知りたいものを吸収していくのが、たまらなく彼にとっては楽しいのだった。
そしてそこから新しい言葉を得れば得るほど、しりとりは長く続いて行く!
“けど、また今度な”
辞書の背表紙から手を離し、かなたは本を持たずカウンターへと向かった。
奥の書架の前でごそごそしている女性の背中に、小さく声をかける。
「まりか」
振り返ったのは、眼鏡を鼻にかけた図書館司書である母親。
息子は近づいてきた彼女に、赤い傘を差し出した。
「これ」
「え?ああ、せやな!今日雨や言うとったのに、すっかり忘れてたわ」
まりかは礼を言って傘を受け取った。
用の済んだかなたは図書館を出、公民館内の多目的スペースの一画に、ホワイトボードを借りて来ては腰かける。
“ムム、宮本武蔵め、まだ来ぬか”
実はこの方,これから決闘を行う予定だった。相手は親友の
「来たきた!おーい!」
10分後、入口のドアがスライド式に開き、外から電動車椅子にのった少年がヘルパーの青年と共に姿を表した。
相手はにこにこと笑うだけで、声はない。
しかし彼の胸の前に取り付けられているラップトップからは、しっかり本人の声が電子音となって流れてきた。
「ここであったがひゃくねんめ!」と。
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