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第9話 今夜の主役はあなたです!
一方、ライバルの全国決定を受けた田中友也もまた、自身のフィールドで奮起を見せていた。
「いけえ友也!」
「がんばれえ!」
しりとりファイトの子ども大会・ジュニア県大会。
かなたとまりかが見に行った会場は、なんと寺の大仏殿。ファイトに理解のある住職のご厚意で貸してくれたというそこは、御仏が優しく見守っているせいか、シニア大会にも劣らないすごみを感じさせた。
ただ観客が圧倒されたのは、何も場所だけではない。
「なら(奈良)」
「こな(粉)」
「そうこ(倉庫)」
「シソ」
予選からしりとりになっていないファイトが延々と続いているが、これは一体…
「あたまとり」
「あたま?」
「最初の文字を次の言葉の最後に持ってきて繋げるしりとりのことよ。ほら”なら”の"な"が、次のこなで、後ろについてきてるでしょ」
そう,いわゆる変わり種である。
普段尻ばかりを取っている選手にとっては、何とも混乱必至の競技だ。
「はあ~,ジュニア大会のレベルも上がったなあ!昔は単純なしりとりしかなかったのに」
「何か俺の全国予選よりも難しい気いする」
しかしそこはアナリストの友也,きっと予選から変化球が来ることもリサーチ済みだったのだろう,全く動じることなく、これが平常運転というような表情で言葉を繋いでいく。
逆に、相手は想定外のゲームにミスを連発。
「さくら(桜)」
「ラッパ…あ」
ピッ!
本日3枚目のイエローカードを取られ失格。
見事友也が勝ちを収め、ベスト4進出を果たした。
本日のトーナメントは一旦ここで終わり、続きは後日行われるらしい。
その結果が見れないのは何とも惜しいと思うかなたである。
もっとも、それは半分本当で半分冗談なのだが。
まりかが軽く息子の背中を叩く。
「さ、現実逃避は終わりやね。そろそろ行くで!」
「うん…」
実はのんびり見ているこの方,自身の大会がもう明日に迫っていた。
これから車で、初戦が行われる大阪へと向かわなければならない。
近畿Bの仲間達とは、選手集合場所である会場近くのホテルで待ち合わせだ。
「ベスト4進出おめでと!」
山野親子はまだ興奮冷めやらぬ人々の中を抜け、友也と彼の母親に声をかけた。
するとライバルは待ってましたとばかりに、母親に目配せし、車椅子にかかっているリュックサックから、ヒモのついた小さな木札を取り出してもらう。
「これ、息子と私で作ったの。全国大会へのお守りよ、持ってって」
表面には、きっと足にマジックを挟んで書いたのだろう、やや斜めった文字の流れがあったが、友達にはそれが"おまもり"とはっきり読める。
友也はにやにやしながら、足でまたキーボードを打った。
「ぼくの かちうん つき」
「あー勝ち運…って、まだお前優勝してないやん!」
「ハハハ♪」
相変わらず生意気なことを言うが、彼の実力は見ての通りの破竹の勢いだ。
かなたはその勢いに大人しくあやかり、もらった守りを首にかけた。
「おーきに!じゃあ、ちょっと日本一になってくるわ」
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