第9話 今夜の主役はあなたです!

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「かーなた♪」 シャンデリアまぶしいホテルのロビーへ着くと、みあや光,トビやんが先に仲間達の到着を待っていた。 かなたも送ってきたまりかに手を振り、自分の旅行カバンを斜めにかけては、仲間達のもとへ合流していく。 「道中ご苦労さん!」 上品なホテルの中でも、いつもと変わらぬTシャツ姿のチキン野郎。 そして、 「はじめて会うね、ワットワーズ」 「うむ、いよいよだな!」 彼が手にしている大きな鳥籠には、モニターごしにコーチをしてくれたフクロウもしっかり出張してきている。 「ちなみに、光くんもみあのお見送り?」 「ふっ、聞いて驚くなかれよ。俺はこのチームの監督になったんや!」 「え!」 いきなりのニュースに、少年は驚きのあまりポカンとしてしまう。 横に居る妹が呆れたように笑い、相方にこそっと耳打ち。 「スマン、中身は正真正銘名ばかり監督や。時々パンでも買いに走らせたって」 「あ、いや、もちろん居てくれてうれしいんやけど、確かパティシエの修業中じゃ?」 「全国大会は無礼講や言うて、おじさんも送り出してもうたん。全く、あいつなんて、ただ「どすどす姉ちゃん」目当てなだけやのに」 すると、 「遅なりました」 とにぎやかな連中の背後で、例のおっとりとした声。 「おお、遥さ」 しかし全員が振り向くやいなや、その身が固まる。 「何ですのん?」 こちらを見返してくるのは、いつものはんなりとした顔で間違いない。 が、着ている服が何というか… 「アンタ、それ私服う!?」 「そうやけど…」 黄土色に白いラインの入ったジャージのズボン。 鶴と亀のプリントが全体に踊っている柄もののシャツ, 手には風呂敷,足下は草履。 これはボケなのか天然なのか? みあが思わず目を白黒させながら聞いた。 「さっそく銭湯でも行ってきたん?」 「行ってまへん!」 「いやあ、“天は荷物を与えない”いうんは、まさにこういうことか…」 「それを言うなら、荷物やのうて二物(にぶつ)どす!」 遙もこれまでのこともあってか、顔を真っ赤にしては相手に噛みつく。 やばい、せっかく良くなりかけた女子2人の雰囲気がまた…。 「す、すいません、遥さんがあまりにも色々お似合いになると思いまして」 慌てて光が打開しようと下手にでるが、もはや焼け石に水。 「へえ、そらどうも」 そんな言葉の裏表がわからぬほど、だてに京の都に一千年、門を構えちゃいないというものだ。 ただ唯一この剣呑な空気をものともせずにトビやんだけは 「安国寺のファッションセンスの無さは、毎年、迷宮入りする難事件やな。今回もすばらしく科学者泣かせや」 と、自身の服装はまるで棚にあげたようなつぶやきをもらした。 流石は腐れ縁を名乗るだけの貫禄はある,これには遥も、はあっと溜息をつくしかなかった。 「とにかく、しりとり協会の会長はんに挨拶して、それから各自荷物を部屋へと置いてきまひょ」 「はーい!」 「あーこれからしばらく、どすどす姉ちゃんと同じ部屋かあ…」 メンバー達は色々口の中でつぶやきながら会長へ挨拶に行き、次にフロントで2つのルームキーを受け取った。 エレベータの中で、途中の階で“ニブツ”を置きに行くみあ・遥と別れ、3人の男と1匹のオスフクロウは10階まで上がる。 東側に位置する彼らの部屋は、明日から戦うことになるスタジアムを真下に望むことができる所だった。 「これが大阪のしりとりスタジアム…」 かなたはベットにドボンとダイブし、近くの窓から八角形の朱色の屋根を眺めた。しかしまだ実感はわいてこない。 「大丈夫だ。人は舞台に立った時、はじめて頂点を目指すものとしての緊張と興奮を一手に受け取るのだ」 ようやく檻から解放されたワットワーズが、少年の肩へ飛んで来る。 「まあ明日もし試合が無くても、ちょっと足伸ばして行ってみるか」 トビやんも隣に腰掛け、関係者用のネームプレートを配りながら言った。 「あ、そういえば」 さっきまりがが別れ際、初戦の対戦カードと日時がわかったら連絡をくれと言っていた。それが決まるのは… 「今晩はディナーも兼ねた全国大会レセプション!そしてワクワクドキドキ、1回戦目の相手がわかる抽選会や!」 部屋で 「中本新喜劇の放送見ながら、テキトーに夕エサ食べてる」 というフクロウを残し、かなた達はホテル最上階のレセプション会場へとやってきた。 エレベータを降りれば、廊下にもすでに沢山の関係者がこぞっていて、やはり全国大会ならではの規模の大きさが実感できる。 会場扉を開ける前にトビやんが言った。 「ちなみにここは取材OK。協会の認可を受けたマスコミばかりやさかい、いくらでもドヤ顔で答えてええで」 「俺ちょっと髪型整えようかな」 光はポケットに忍ばせていたマイ櫛でさっと短髪をとかす。 だが、肝心のかなたは笑って否定。 「無い無い!誰も初参加の選手なんか興味無い!」 「さーどうだか」 いざ扉が開かれる。 瞬間、大勢のカメラのフラッシュが花開いた。
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