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ジュー…
しりとりが一斉にやむ。
かさ増しされた衣を持つエビが油で揚げられていく音だけが店内に響いた。
「アンタ…」
祖母や客人が見つめるカウンターの奥にいる店主―かなたの祖父・かなよしは、顔を鍋からあげることもなくさらに言う。
「そんなチャラチャラした遊びの大会なんぞ、出たって時間の無駄や」
「ハハハ。相変わらずかったいなあ、旦那は」
さっきまでかなたと勝負していた白髭まじりのおじさんが皆を見てそう苦笑いしてみせる。一方、娘のまりかは、そのぶっきらぼうな父の態度にむっときたらしい,立ち上がっては聴衆監視の中ではっきりと伝えた。
「そら割烹一筋の世界で生きてきたおとんからしたら、しりとりなんてただの遊びに見えるやろな。別にお金にもならへんし、将来のキャリアがつくわけでもない。けどうちは、ファイトで沢山の人と出会うて、沢山の成長をしてきた」
「……」
「1回戦で負けたってええ。かなたにもそういう経験をしてほしいんや!それが母親である、うちの願い」
「…ふん」
一瞬こちらを向いた祖父の眼光は鋭く、かなたはドキっとした。
しかし後は何も言わず、また次の粉飾されたエビを油に放りこんでいくのみ。
「気にせんでええで、かなたくん」
さっきのおじさんが、ジュースをおごってくれながら肩を叩く。
「アンタのおじいちゃんはな、ああ言うてるけど、一度も俺達にここでしりとりするななんて追い出したことはない」
「うん」
「まりちゃんが大会に出た時も、ファイト繋がりで知り合うたたくまくん連れてきた時も、結果的には何も止めてはいないんや」
「でも、そんならじいちゃんは、何でしりとりをバカにするようなこと言うん?」
「うーん…」
かなたは彼の推理をもっと聞きたいと思った。
しかし元からのんべえらしい相手は次第にアルコールの海へと飲まれてしまい、机にとっぷしては眠りはじめてしまう。
結局しりとりはこれにてご破算となり、後は皆もぐもぐごくごく腹を満たしては、各自店を後にしていった。
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