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第3話 シニア大会 奈良予選!
結局かなたは自分の心に聞き、全国大会の予戦に出てみることに決めた。
会場となる奈良市内の体育館は、今日は梅雨合間の久しぶりの晴れもあり、開場30分前にもかかわらず大勢の人が並んで待機していた。周りをうろつく鹿達も、突然現れた集団を不思議そうな目で見つめている。
受付をして自分の財布からエントリー料金を支払うと、係員からM-121と書かれたネームタグを渡された。
予選1回戦は、このアルファベットでグルーピングされたライバル達としのぎを削るらしい。出番はまだ先なので、ひとまず2階席へと上がり、応援に来たまりかと共に試合観察だ。
中央をパーテーションで仕切った2つの区画に、それぞれ10名ほどの選手がパイプイスを輪にして座っている。
そこへ単語が書かれているという数枚のプラカードを持った審判団が登場。番号の一番若い選手にそれを引かせ、その引いた言葉のお尻からしりとりがスタート。あとは時計回りに30分間延々と言葉を繋げていく。
「すごい、皆即答で答えてる」
「回答時間は1回5秒以内ね、繋げられなければ即失格だから、困ったら思いついた言葉何でも言いなさい。あと気をつけたいのはNGワード。ほら、そこ」
ピ!と笛が吹かれ、右グループのしりとりが一旦止まる。
「まずは当然「ん」がつく言葉や他の人が使った言葉はアウト。あと無いとは思うけど、人を傷つける言葉もアカン」
「国の名前は?」
「それはOK。川や島の名前も大丈夫。ただ「かなた」とか「たくま」とか沢山の人が知らない名前は…」
「山野さん!」
すると2階席のエレベーター口から見慣れた電動車椅子が姿を表した。
友也と、彼の母親である田中さんである。
まりかが立ちあがって会釈した。
「あら、どうも!今日は応援ですか?」
「そうなんです。かなたくんと、それから学校の先輩達の試合を見に」
しりとりファイトの良い所,それは全ての人が同じ舞台に立てるということだ。
参加料はかなたが小遣いから出せるくらいの低料金で、子どもや生活困窮者が手を上げやすいようにしているし、友也のように特別な支援が必要な選手に対しても、その分け隔てないルールづくりをしてくれていると田中さんは言う。
「ほらJ組の子に、友也と同じ様に足でキーボードを打つ子がいますけど、その入力時間はちゃんと加味され延長されています」
他にも難聴の人がいる場合は特殊なイヤホンを用意したり、手話でしりとりするファイターのために手話通訳士が同席したりと、その細やかな配慮は徹底されているという。
「らいねんは ぼくも ねんれいてきに さんかできる。だから、かつなら いまのうちやで!」
するとライバルが文字板を叩いてはエールを。
「またあ、生意気な!」
それに苦笑いしてかなたは言葉を返すが、先日あれだけの分析をして自分に勝った少年である。脅威にならないわけがなかった。
やがて館内放送でM組出場メンバーの招集がかかる。
「さ、行ってこい!」
「がんばって、かなたくん!」
「あ、うん…」
皆に手を振り、1階へと降りて行く。
ただ他の予選組の早いしりとりに圧倒され、先日一歩リードされたライバルを前にしては、正直全く勝てる気などしないのが弱気ないつもの彼であった。
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