第3話 シニア大会 奈良予選!

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一緒に戦う参加者の中に配慮が必要な人はいなかったので、M組では通常ルールが適用されることになった。つまりは5秒回答のしりとりでガンガン言葉を回していくことになる。 全員がパイプイスに座ると息つく間もなく、腕章をつけた係員が静かに始まりを告げる。 「ではこれより、Mグループの予選を開始いたします。決勝進出者は10名中1名です。レッツしりとりファイト!」 まずスタートのカードを引いたのは、ピンヒールを履いた若い女性だ。 「だいぶ?…」 「カジ」 「(着物)」 「ロウィル」 様々なジャンルより四方八方,皆、好きずきに言葉をつないでいく。 初っ端からウィルスをふっかけられ、かなたは戸惑った。 「す…ロバキア!」 とにかくまりかのアドバイスを元に手当たり次第言葉を投げていくが、緊張の糸はすぐにぴーんと張り詰め、頭の中はすぐに一面の銀世界へ。 もはや「ああ言おう」「これを使おう」と思っていたことの全てが抜けてしまい、まるでコーヒーカップに乗せられたような気持ちで30分間振り回されることに。 「そこまで!」 ホイッスルが虚しく響き、あっけなく1回戦予選が終わった。 これから5分程度のインターバルを置いて、決勝進出者が発表される。ファウルをとられて失格になった2名と、突然立ちあがっては無言で去って行った1名が出たので、最後まで残ったのは7名だった。このように選手が複数名残っている場合、一人ひとりの回答速度や技術性などを審判団が確認し、勝者を決定するという。 ”それでも7分の1だもんな” かなたは床に置いていたカバンを背負い、名札もはずしてはすぐに帰り支度をはじめた。 ”うん、良い経験になった。今日の俺はよう頑張った” 「決勝進出は121番、山野かなたさんです!」 少年は、パイプイスより派手に転げ落ちた。 しかしこの発表に一緒に闘っていたファイター達からは驚きと拍手が沸き、 「いよっし!」 2階席からは母親がガッツポーズしている姿が見受けられた。 ただ当の本人はわけがわからない。 生まれてこの方、給食の余りプリンをかけたジャンケンさえ勝ち残ったことのない男である,まさかそれが選ばれるなぞ、一体何の冗談だ? 「かなた じしん なさすぎ」 戻った先で、友也に呆れかえってはそう突っ込まれてしまう。 しかし彼がデスクトップに映し出したのは、決定的な勝利の証拠であった。 パソコンが音声記録で拾った一連のしりとりを、各選手が出した言葉ごとに並び替えた一覧表。 そしてかなたのところだけが蛍光イエローで強調されたのだが、それを見た田中さんが、驚きの声をあげた。 「プラハ、ベオグラード…そういうこと!」 「そうです。プラハはチェコの首都,ベオグラードはセルビアの首都。あと最初に出したのもスロバキア。アンタしりとり中、ずっとヨーロッパの地名ばかり並べとったんや。関連のある言葉を繋げていくのは、ものすごい得点になる!ちなみにこのトゥズラってどこ?」 「あ、それボスニア・ヘルツエゴビナの都市名」 「しらへん。かいじょうにいるひと かなたいがい だれもわからへん…」 あまりの都市名のマニアックさに、若干審判団の顔色も青くなっていたらしい。 しかしいい加減白目を向いていたかなたの魂が無意識に欧州を旅していたことは、バトル終了後にきちんと分析され、勝利に結びついたということだ。 ともやが今回ばかりは素直に感想をのべる。 「ひごろのけいけんが ものをいったね!」 「え?いや、ただ運がよかっただけやって!」 決勝に進めたとはいえ、先の不安に改めて溜息をつく。 こう単語を並べられても、やはり本当に自分が言ったのか思い出せなかった。
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