524人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「すみません。本当にすみません。べつに疑ってかかっていたわけじゃないんですけど、家主追い出す気はないです。逆に何かなくなったものとかあったら私も疑われちゃいますし」
また余計なことを言ったな、というのは言ってから気付いた。
「なくなって困るようなものそんなに置いていないですけど。帰るときは身体検査しましょうか」
「ああ~……、それ拒めないですね」
「いや普通に拒むところですよ。なんでちょっと受け入れようとするんですか。そこは監禁とか殺しを疑ったときくらいの警戒心でいきましょう」
ごめんなさい。
玄関からは廊下が続いていて、右手に洗濯機とミニキッチン、左手に風呂とトイレ。通りすがりに説明を受け、覗いてみたらユニットバスではなくセパレートで、浴室は黴もなく綺麗な状態だった。備え付けのタオルハンガーにスプレー式洗剤と掃除用らしいブラシが引っかかっていたので、結構マメな性格なのかもしれない。
そう思ったのが伝わったのか、少し困った顔になった時任から釘を刺されてしまった。
「部屋に来たこと、あんまり会社で人に話さないでくださいね」
「それはもちろん。今日は成り行きだからね! 今まで通り話しかけたりしないし、全然他人として振舞うから心配しないで! そもそも他人だし!」
力強く言ったら、なぜか妙に呆れたような顔をされ、小さく溜息までつかれてしまった。
「なんていうか……それはそれで嫌なんですけど」
「嫌とは」
「面と向かって『無視する』って宣言されて嬉しい人ってあんまりいないですよね」
「たしかに」
心の底から同意したのに、時任にはふいっと顔を逸らされてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!