【本編1-2】戦略的ダメ男

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「すみません。本当にすみません。べつに疑ってかかっていたわけじゃないんですけど、家主追い出す気はないです。逆に何かなくなったものとかあったら私も疑われちゃいますし」  また余計なことを言ったな、というのは言ってから気付いた。 「なくなって困るようなものそんなに置いていないですけど。帰るときは身体検査しましょうか」 「ああ~……、それ拒めないですね」 「いや普通に拒むところですよ。なんでちょっと受け入れようとするんですか。そこは監禁とか殺しを疑ったときくらいの警戒心でいきましょう」  ごめんなさい。  玄関からは廊下が続いていて、右手に洗濯機とミニキッチン、左手に風呂とトイレ。通りすがりに説明を受け、覗いてみたらユニットバスではなくセパレートで、浴室は黴もなく綺麗な状態だった。備え付けのタオルハンガーにスプレー式洗剤と掃除用らしいブラシが引っかかっていたので、結構マメな性格なのかもしれない。  そう思ったのが伝わったのか、少し困った顔になった時任から釘を刺されてしまった。 「部屋に来たこと、あんまり会社で人に話さないでくださいね」 「それはもちろん。今日は成り行きだからね! 今まで通り話しかけたりしないし、全然他人として振舞うから心配しないで! そもそも他人だし!」  力強く言ったら、なぜか妙に呆れたような顔をされ、小さく溜息までつかれてしまった。 「なんていうか……それはそれで嫌なんですけど」 「嫌とは」 「面と向かって『無視する』って宣言されて嬉しい人ってあんまりいないですよね」 「たしかに」  心の底から同意したのに、時任にはふいっと顔を逸らされてしまった。
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