【本編1-2】戦略的ダメ男

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(気を付けよう)  今のは自分が悪かったな、とは思う。 「タオルと、着替えはなんだろ。ウエストがゴムのジャージとかTシャツなら大丈夫かな。脱いだ服は出しておいてくれれば洗濯機まわしますよ」  洗濯機の横の棚に着替えやタオルが入っているらしい。てきぱきと選んで取り出しながら渡してくる。 「洗濯……」 「気になるなら下着は手で洗って浴室に干しておいてください。浴室乾燥ついているので」  風呂場も綺麗だし、洗濯機やキッチン周りも雑然としたところがない。  本人の手際の良さからして、通いの彼女やお母さんに世話をされているようにも見えない。 「時任さんって、できる……」  思った通りに言ってしまったが(あ、私はこういうのがだめだ)と一瞬にして自己嫌悪。  振り返った時任にも何か言いたげな顔をされてしまう。 「ごめんなさい。侮っていた、というほど時任さんのこと知らなかったんですけど。ずいぶん気が利くし、家も綺麗だし、普段からこうなのかと」  言えば言うほど泥沼ですかねと思っていたが、時任にはにっこりと微笑まれてしまった。 「まあ、そうですね。会社では『俺、家事とか全然ダメですよ。部屋も汚いし』って言ってますから。だから、こういうのはあんまり人に知られたくないんです」 「なんで?」  素で聞き返すと、時任は端正な顔に笑みを広げて見返してきた。 「佐伯さんもじゃないですか。『私、料理とか全然ダメです。取り分けも下手です。気が利かない女なんで』って飲み会で言ってるの聞きました。あれ、男避けですよね。『家庭的な女が好きだなー』って言う男が好きじゃないんじゃないですか」 (うわ……!)
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