【本編1-2】戦略的ダメ男

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 いつ、どこで見られて聞かれていたんだろう。確かに身に覚えのある発言だった。  もともと、飲み会で女性に取り分けてもらおうと待っているタイプの男が苦手だ。できれば関わりたくない。なのであらかじめ「できない女なんで」と言う癖はついていた。期待されたくないのだ。こちらだって、そんな相手から得るものがあまりに少ない。  そこまでして、振り向いて欲しい相手もいなかったし。 「同じということは……」 「身の回りのことそれなりに自分でできますよって言うと、モテちゃったりするんですよ。だけど俺、べつに好きなひと以外にモテたくないんで。仕事に関係ないところでは全部『ダメな男』で通しているんです」  まさかの、戦略的ダメな男。 「なるほど……。だけど、それはそれで『母性がくすぐられちゃう~』みたいな相手に、モテません……?」 「母親、存命中なので。わざわざ恋人に母親を兼ねてほしいとは思いません。だいたい、佐伯さん『母性がくすぐられる』相手、好みじゃないでしょう?」 「そうですね。まだ母親になっていないので。母性は子どもができるまでいいかなって思っています。そもそも、結婚とか出産とか、いまは全然現実感ないんですけど。相手いないし」  あれ、なんでこんな話までしているんだろうと思ったところで、濡れそぼって冷えた身体が震えてくしゃみが出た。 「風邪ひいちゃいますね。お湯をたくさん出してどうぞ。五分したら洗濯機まわしにきますので、浴室にいてくださいね?」  言い終えて、きびすを返し、ドアを開けて部屋へと入っていく。
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