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笑った形の唇が近づいてきて、なんだろうと思っているうちに唇に重ねられていた。
ものすごく近い位置に、伏せられた長い睫毛が見えて、すぐに離れて行った。
「……えっ」
我に返って口元に手を当てると、「拭われたら凹むので後ろ向いてからにしてください」と軽く肩を押されて回れ右させられた。
人を駄目にする系のビーズクッションや、黒光りするちゃぶ台、大きなテレビが壁際に置かれた程度の、片付いた部屋に足を踏み入れてから考える。隅にはしごがあり、見上げるとロフトになっていた。ベッドはないので寝るのは上なのかな、なんてしばらく関係ないことを考えてから「ええっ」ともう一度びっくりしてしまった。
キスを……してしまった。
* * *
洗濯と乾燥が終わるのを待つ間、二人でとりとめなく話していた。
会社の知り合いだけに、共通の話題は社内の噂話くらいかなと思っていたが、意外にも本や海外ドラマの趣味が合うようで仕事の話はほとんどしなかった。
本来はバーベキューに向けた待ち合わせ時間だっただけに、話しているうちに昼になり、ごく自然に時任がパスタを茹でて、レトルトのボロネーゼソースに粉チーズをたくさん振りかけて食べた。凛はフォークだけで食べていたが、時任はスプーンとフォークを使っており、仕草が嫌味なく優雅に映えていた。
「服が乾いたら……」
食事の後に、時任が意を決したように切り出してきた。
「外に、飲みに出ませんか。オープンが十七時なのでまだ時間があるんですけど、料理の美味しい店があって。この近くです」
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