【本編1-3】キスと

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 どこか躊躇いがあるようにも見えたが、この時間に名残惜しさを感じていたのは凛も同じで、提案に乗ることにした。 「良いですね! 行きたいです!」 (そこの支払いを持たせてもらったら、今日の埋め合わせくらいにはなるかも?)  誘いに乗る言い訳も、抜かりなく用意して。  食後のコーヒーの入った飾り気ないマグカップを両手で包み込みながら、時任は笑みをこぼした。 「九州料理のお店で、お酒もそちらのものを合わせているんですけど、何食べても美味しいですよ。俺のおすすめは明太子の天ぷらですね。大葉で包んで揚げているんですけど、明太子には生っぽさが残っていてすごく美味しいです」 「聞いているだけで美味しそうですね!」 「昼はごめんなさい、うちにたいしたものがなかったから」  申し訳なさそうに付け足されて、凛はどうぞと譲られていた大型ビーズクッションから勢いこんで身を乗り出した。 「いえいえ、十分でしたよ、パスタ美味しかったです。このコーヒーも美味しいですし。なんか家みたいに寛いじゃって……」 「また来ます?」  目が合うと、滲むように淡く微笑まれる。見ているだけで、胸がしめつけられる感覚があった。 「……そういうことを言ってもらえる人生、憧れます」 「ん?」 「いえ、私のようにモテようとしなかったり、仕事でも特に可愛げがないと『愛され』って無縁なので。時任さんのような人に、プライベートでそういうこと言われる人生良いなあって」 「……うん?」  時任が困ったような微笑で首を傾げていて、ハッと我に返った。 (困るよね! そりゃ困るわこんなこと語られても!)
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