523人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
どこか躊躇いがあるようにも見えたが、この時間に名残惜しさを感じていたのは凛も同じで、提案に乗ることにした。
「良いですね! 行きたいです!」
(そこの支払いを持たせてもらったら、今日の埋め合わせくらいにはなるかも?)
誘いに乗る言い訳も、抜かりなく用意して。
食後のコーヒーの入った飾り気ないマグカップを両手で包み込みながら、時任は笑みをこぼした。
「九州料理のお店で、お酒もそちらのものを合わせているんですけど、何食べても美味しいですよ。俺のおすすめは明太子の天ぷらですね。大葉で包んで揚げているんですけど、明太子には生っぽさが残っていてすごく美味しいです」
「聞いているだけで美味しそうですね!」
「昼はごめんなさい、うちにたいしたものがなかったから」
申し訳なさそうに付け足されて、凛はどうぞと譲られていた大型ビーズクッションから勢いこんで身を乗り出した。
「いえいえ、十分でしたよ、パスタ美味しかったです。このコーヒーも美味しいですし。なんか家みたいに寛いじゃって……」
「また来ます?」
目が合うと、滲むように淡く微笑まれる。見ているだけで、胸がしめつけられる感覚があった。
「……そういうことを言ってもらえる人生、憧れます」
「ん?」
「いえ、私のようにモテようとしなかったり、仕事でも特に可愛げがないと『愛され』って無縁なので。時任さんのような人に、プライベートでそういうこと言われる人生良いなあって」
「……うん?」
時任が困ったような微笑で首を傾げていて、ハッと我に返った。
(困るよね! そりゃ困るわこんなこと語られても!)
最初のコメントを投稿しよう!