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「自分も言って欲しいとかじゃなくて! 私はもうその辺諦めついているつもりだったんですけど、時任さんにこれからそれを言われる誰かが、羨ましいなって、思ってしまって」
「うん。何を言っているのかよくわからない」
「わからない……」
それは、私の妄想だから、そうですね。
言い訳を重ねるべきか悩んでいる間に、時任が視線を流してきた。
「俺、いま体良く振られたのかな? それともまだ望みがあるんですか」
「振られた? 望み?」
反復してから、口をつぐむ。
自分はそれほど察しが悪いわけではない「つもり」なので、反応としてはやや鈍くなったが、ここにきてようやく聞かれた内容くらいは理解した。
「私……こう……恋愛経験なるものがろくになくてですね……。いまの、告白なんですか」
震えそうになりながら聞いてしまう。
時任はしれっとした表情で「はい」と答えてから、立て板に水の如く続けた。
「わかりにくかったみたいなのでストレートに言いますけど、好きです。結構前からですね。眼中に無いみたいだったので、まずは知り合いになるのが目標でしたが。いきなり、休日に、自分の部屋で湯上りで俺の服着て美味しそうにご飯食べていたら言いますよ。むしろ今言わないでどうする、って」
状況を説明されると、説得力がある。
「確かに、突発的な偶然で疑似的なシチュエーションとはいえ、ここだけ取り出してみるとかなり関係が進展した状態ですよね。キスも……」
言いかけて、口をつぐむ。
(キス、してるし。いや、さっきのはなんだったんだろうって思っていたけど、その後普通だったから流しちゃっていて……)
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