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無意識に、袖から少しだけ出た指で、唇をなぞる。
視線を感じた。
目が合うと、こちらの気まずさを吹き飛ばすように明るくにっこりと笑われた。
「あんまり言われたくなかったらごめんなさい。今の、かなりあざと可愛かったです」
「あざと」
それこそ無縁だな? と反論したかったが、時任は言うだけ言ってあぐらをかいた姿勢のままちゃぶ台に額をぶつけるように突っ伏してしまった。
「ちょっと今目に焼き付けているんで。可愛かったな~……」
「ええええええ、そういうの、恥ずかしいというか、結構ひいちゃうんで、やめてください!」
「いやいや。心の中は自由ですよ。この後は許可がない限りは指一本触れませんけど、頭の中で何考えても許しください」
「ちょっと待ってください、そ、それは……!」
さらに身を乗り出したら、ぶかぶかのスウェト生地がマグカップをひっかけてしまった。こぼす、と肩をびくつかせて固まってしまったが、ひょいっと伸びてきた時任の手がマグカップをとらえていた。大き目のカップだったのに、それを包み込むような指の長さに、どきりと胸がはねた。
「慌てなくて大丈夫ですよ。さすがに今日の今日でどうにかしようなんて考えていません。欲を言えば明日の日曜日も会って欲しいなとか、来週の予定はどうなのかななんて考えていますけど」
ちゃぶ台すれすれの位置から見上げられて、言葉に詰まる。
ややして、絞り出すように言った。
「明日は特に予定はありません」
「あ。待ってください。今それ聞くべきじゃなかった」
「えーと? すみません?」
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