【本編1-3】キスと

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 なんだろうと思ったら、目元に苦笑を滲ませた時任が何かを観念したかのように白状した。 「帰してから、『家に無事につきました?』なんて連絡がてら聞くべきでした。今聞いてしまうと……、帰したくなくなります」  いや、でも私は大人なので。  帰さないと言われても帰るときは帰ります。  言うべき言葉は頭の中にあったし、言おうと思えば言えそうだったのに、どうしても喉から出てこなかった。  あまりにも居心地が良すぎて。  帰りたくないと、もう、思ってしまっている。 (帰らないとしたら……どうする?)  時任が、待っている。  思い切るには少し心が弱すぎて、結論を先延ばしに、逃げた。 「その……、お酒を飲んでもっとゆっくり話してみてから、結論づけましょうか」
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