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【本編1-4】朝まで
時任おすすめのお店で心行くまで飲んで食べて、話をした。
自分でも驚くほど会話がスムーズで、人生でこれほど話が合うひとにはもう出会わないんじゃないかと、離れるのが怖くなるほどだった。
帰り道、時任から手を繋がれたときには、自分も指を絡ませてしまった。
「ちょっと買い物。待っててください」
と、コンビニ前で別れて待つ間にもぐるぐる考えたが、この短い待ち時間でさえ切ないという感覚に、結論が出てしまっていた。
(五年前から知り合いだった人の中にも、これほど近く感じたひとはいなかったわけで)
時間は、あてになるようでならない。
ただ、これ以上の人にはもう巡り合わないかもしれないという予感は、どこか怖い。
本当に、落ちてしまった気がする。
マンションについて、階段をのぼり、部屋の前まで来てしまった。
先にどうぞと促されて中に入ったら、後ろでドアを閉めて鍵をかける音に続いて、背中から抱きすくめられる。
「嫌……なら、今日はここまで。自分としては、既に十分な進展と、考えていまして」
押し殺したような声で耳元で囁かれ、凛はぐっと歯を食いしばって吐息をこらえた。
それから、おそるおそる呼吸を再開する。
「お好きなようにしてください」
締め付けるように腕に力が込められて、背後で切なげな溜息をつかれてしまった。
「佐伯さん、酔ってます、よね。判断力残って言ってますか」
確かに、少し多めに杯を重ねた記憶はある。しかも日本酒メイン。体質的にアルコールに強いとはいえ、やや酩酊に近い状態にあるのも事実だ。
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