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【本編1-5】月曜日の朝に
月曜日。
「土曜日は残念でしたねえ」
と、バーベキュー班だったひとと挨拶がてら話しつつ。
遠くに見えた時任に、それとわからない程度に合図をしたつもりが、普通にデスクを横切って近づいてきた。
「あ、時任くん。せっかく計画立てたのにねー。また別の日に仕切り直しできないかな?」
そんな風に話しかける女子社員に如才なく返事をした時任が手を持ち上げた瞬間、小さな悲鳴が上がった。
「指輪……?」
時任の右手の薬指に、シンプルな銀色の指輪。
指摘された時任は、本当に爽やかな笑みを浮かべて爆弾を落とす。
「彼女とお揃いなんですよ」
そして、固まっている女子社員にそつなく挨拶をして踵を返す。そのわずかの間に、ちらりと向けられた目が凛の手を確認していた。
(なんでつけてないの?)
(さすがにまだ社内は無理!)
むしろなんでつけてきたの! と目で会話を。
「彼氏がいるならいるでハッキリ周りにわからせた方がいいですよ」なんて言われて日曜日の午後に連れ出されて「俺も」とお揃いで買われたのだが。
まさかいきなりつけてくるとは思わなかったので、心臓が痛かった。
あそこで声をかけられなくて本当に良かった、と思いながら自分のデスクに向かい。
なぜほとんど接点のなかった彼が、特に通り道でもないこのデスクに金曜の夜に寄って、凛が忘れていたスマホに気付いて持ち帰ったのか。
気になっていたけど、聞くのはまた今度にしよう。
(なんだかちょっと怖いから)
などと思いつつ、バッグからフェルト地の小袋に入った指輪を取り出してみたものの、戻す。
今はまだ。
遠くで、再び指輪で物議をかもしたらしい時任が、女子社員に悲鳴を上げさせているのが聞こえてきた。
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