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【本編2-1】姉弟
生まれたタイミングがほんの数時間しか変わらないとはいえ、「姉」「弟」と物心つく前から言われ続けると、当人たちの意識も「そういうもの」になる。
少なくとも、佐伯凛は双子の弟の昴を「弟」と認識してきた。
思春期を迎える前にあっさり身長で突き放されて体格に差もついて、ついには見下ろされることになっても、「兄」と思ったことはない。
それは、他に弟妹もいない二人きりの関係で、凛は常に「長女」であり昴は「末っ子」として振舞ってきたことに起因していると考えられる。
昴がことあるごとに「姉さん」と言うのも大きい。
いつもは「凛」と名前で呼ぶくせに、甘えるときは「姉さん」と言ってまとわりついてくる。
凛はそれを、大人になった今でも、邪険にすることができない。
「突然ごめんね。ありがとう、助かっちゃった」
小雨の降る中、傘を差さずにカフェのガラス戸を開けて駆け込んできた昴は、凛の姿を見るなりにこりと甘く微笑んだ。
長身小顔で、手足が長く立ち姿はモデルのように様になっている。客席の間を通ってきただけで、それとなく視線を集めているのはいつものこと。
服装こそスーツだが、勤め先は自由な社風のIT関連ということで、明るく染めた後ろ髪を長めに伸ばしてゆるく結んでいる。黒髪の凛とはぱっと見、さほど似ていない。
そもそも、男女ということもあってか、元から「双子」と言われてもピンとこない程度に、雰囲気も面差しも異なっているのだ。傍目には姉弟にすら見えないかもしれない。
それをいいことに、お互い何らかの理由で「連れ」が必要なときに、相手を頼ってきた過去もある。
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