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すぐに戻ってきた昴と、連れ立ってカフェを出る。
「傘持ってきてないの?」
髪や肩がほんのり湿った昴に言うと、「降ると思ってなくて」と悪びれなく返された。
「じゃあ、私の傘、結構大きいから……」
水色と白のストライプの長傘を差し出す。
昴は品のある笑みを唇に浮かべて、目を細めた。
「さすが。姉さんはしっかりしてて頼りになる」
傘を受け取って開くと、空いた手で軽く凛を抱き寄せてくる。
「濡れるから近くに。弟と相合傘だけど我慢して」
「べつに気にしないよ。こっちに気を取られて、周りの人にぶつけないようにね」
笑いながら見上げると、ひどく優しげな表情で見下ろされていた。
(つくづく似てないんだよなぁ)
身内の欲目を抜きにしても、様になる男だと思う。
自分が長いこと彼氏がいなかったのは、「これが標準」だったせいもあるのではないだろうか。
「足元気を付けてね。行こう」
「うん」
肩を並べて歩き出す。
あと何回こうして弟と二人で過ごす機会があるかわからないけれど。
(彼氏ができました、って報告すべきなのかな)
いざ言うとなると気恥ずかしいなとぼんやり考えていたところで、今一度すっと昴に腰を抱かれた。
「凛。前見て。いまぶつかりそうだった」
「ごめん。ありがとう」
うっかりしていたと謝るも、昴の腕はまわされたまま。
「危ないから、このままエスコートしようかな?」
首を軽く傾げて顔を覗き込まれて、凛は「ごめんなさいってば」と言いながら身を捩る。
瞬間的に指先にぐっと力を込められた気をしたが、強い違和感を覚える前にそっと手を離された。
(昴……?)
なんだろう、今日はいつもより絡んでくるな、と思いながら凛は前を向いて歩き始めた。
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