【本編2-2】弟の嫉妬(1)

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【本編2-2】弟の嫉妬(1)

 昴が予約していたのは、ビルの地下にある創作イタリアンのレストラン。  エレベーターで降りると、光を絞った薄暗い店内に直結していた。 「足元気を付けて」  声をかけられて下を見ると、黒の大理石柄の床はところどころがガラス張りになっていて、柔らかな光を放つライトが埋め込まれている。  べつにつまずいたわけでもないのに、昴に腕をとられて、歩くように促された。 (「カップル」設定だし、振り払うのも変かな?)  この年齢になって、弟と身を寄せ合って腕を組むのはいささか抵抗があったが、今日ばかりは仕方ないと飲み込む。  ふと顔を上げると、正面には床から天井まで貫くダイナミックなワイヤーツリーに、スポットライトをいくつも絡ませたオブジェが聳えていた。その向こう側に、人の気配。騒々しいわけではないが、食器やシルバーの触れ合う音とともに、心地よい賑やかさが漂ってくる。 (さすがモテる男は、良い店を知ってる)  案内の店員の後に続き、歩きながらさりげなくカウンター席やテーブル席に視線をすべらせてみたが、ほぼほぼ男女の二人組。デート用の店というのをひしひしと感じた。  一応、会社を出る前にラベンダー色のフレンチ袖フレアワンピースに着替え、デートに見えるように気を付けては来たが、店の雰囲気から浮いているわけではなさそうでほっとした。弟に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかない、という姉としての見栄もある。 「予約、わざとカウンター席なんだ。向かい合って食べるより、並んで座りたいんだよね。その方が距離が近いし、大きな声を出す必要もないから話しやすい」
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