523人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
ずっと前から予約というわりにテーブル席ではないことを言い訳するように、隣り合って腰を下ろしてから昴に言われた。
「わかる。私もカウンター席好きだよ」
時々腕や肩が軽く触れる。
相手が、「恋人」であるところの時任だったら、と考えて少しぼうっとしてしまった。
付き合い始めてから、特に記念日のようなイベントもなく、予約を入れるような店で食事をしたことはまだない。
なにぶん、彼氏がいないままずるずると年齢を重ねてきたのでデートに関するノウハウは何もないのだが、この店のことは覚えておこう、と心に留めた。
(いざとなったら、昴に相談してもいいかもしれないけど)
「料理はもう頼んである。食前酒はどうする? 俺と一緒でいい?」
「うん。昴のセレクトなら安心だから、全部任せる」
双子だけあって、好みは似ていると思っている。そうでなくても、好きも苦手も把握されているので、心配は何もない。
一緒にいるととても楽。
とはいえ、いずれ誰かの夫になる男、というのはそのモテぶりを間近で見て来ただけによくわかっている。この心地よさに甘えるわけにはいかないと、ずいぶん前から意識してきた。
それこそ、お互い就職してからやや疎遠になっていたのも、それが理由だ。
凛の方から、自覚的に突き放してきた経緯がある。
甘えたがりの弟に対して幾分罪悪感はあったけれど、自分と違って休日に暇をしていることもそうそうないだろうと、やや強引に納得してきた。
正月に実家で顔を合わせたときなど、ほんのりと恨み言を言われたりもしたが、流し続けてきてしまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!