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「……なんか今まで、ちょっと意地になってた。冷たくしてごめんね」
食前酒から二杯目のロゼスパークリングワインにうつり、本マグロと山芋のエスプーマというお洒落な料理を平らげて、凛はしみじみと言った。
「なに、どうしたの? 姉さん、俺に何したって?」
隣り合っているせいで、声は控えめ。肩を寄せて茶化すように低い声で軽く笑われて、凛はもう一度「ごめんなさい」と言った。
「昴にはいつも彼女がいるから、姉さんは弟離れしなきゃって気負ってたみたい。だけど、ちょっと考えすぎだったかも。彼女は彼女、姉は姉だよね。自分に彼氏ができてようやくわかった。彼氏と弟は全然違う。一緒にする方が変だし。いずれお互いに家庭を持つかもしれないとしても、今から変に距離を置くことないかなって」
シャンパングラスの中で泡の弾けるピンクのワインを見つめて、凛はしみじみと笑みを浮かべた。
そして、ふと思い出して足元の籠に入れていたバッグを手にする。
彼氏彼女の証明として時任から受け取った指輪を、昴に見せてみようと。
「あのね」
バッグの中を探りながら話しかけたそのとき、不意にひんやりとした空気を剥き出しの腕に感じた。
冷房の向きでも変わったのかな? と不思議に思いながら顔を上げ、辺りを見回す。
隣。昴と目が合った。
「彼氏?」
唇の端に笑みを浮かべている割に、目がまったく笑っていない昴に確認される。
その声は、どういうわけか、凍てつくほどに冷ややかだった。
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