【本編2-3】弟の嫉妬(2)

1/4

523人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ

【本編2-3】弟の嫉妬(2)

「彼氏が……できました」  なぜか。  敬語に。  昴は視線を逸らしてカウンターに向き直る。シャンパングラスを長い指で掴んで唇を寄せ、一口。  横顔をさらしたまま、ちらりと視線を向けてきた。 「いつ? 誰? どうして?」  圧がすごい。  寒気を感じながら冷や汗が背中を伝う、そのくらいの緊張感で凛は慎重に答えた。 「最近です。会社の後輩で」 「『後輩』ってことは年下? 凛ってそういう趣味だったんだ」  姉さん、と甘える口調ではないところにも、ひしひしとプレッシャーを感じた。 (なんだろう。自分は歴代彼女がたくさんいたはずなのに、理不尽な気がする)  責められるいわれはないはずなのに、と思いながら凛もグラスを傾けて中身を飲み干した。  ボトルでオーダーしていたので、店員の動きを待つまでもなく昴に注がれてしまう。 「それで。なんでまた年下が良いってなったの?」  言葉の端々に棘を感じつつ、凛はムッとして言い返した。 「べつに、年下だからどうというわけじゃなくて。良いひとだったから」 「良いひとって何? 俺、凛に半端な男と付き合って欲しくないんだけど。相手、俺より良い男?」  グラスを持ち上げて、一口、二口とちびちび飲んでいた凛は堪りかねて「あのね」と言った。 「昴、さすがにそれはナルシストだと思うよ。『俺より良い男?』って、普通そんなことなかなか言えない……。姉としてそれはあんまり良くないと思うんだな」  酩酊するほど飲んだつもりもなかったのに、カッとして血の巡りでも良くなったのか、全身が熱い。  気付いて、凛はグラスをカウンター上に戻す。  これ以上はまずい、と理性が働く。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

523人が本棚に入れています
本棚に追加