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【本編2-3】弟の嫉妬(2)
「彼氏が……できました」
なぜか。
敬語に。
昴は視線を逸らしてカウンターに向き直る。シャンパングラスを長い指で掴んで唇を寄せ、一口。
横顔をさらしたまま、ちらりと視線を向けてきた。
「いつ? 誰? どうして?」
圧がすごい。
寒気を感じながら冷や汗が背中を伝う、そのくらいの緊張感で凛は慎重に答えた。
「最近です。会社の後輩で」
「『後輩』ってことは年下? 凛ってそういう趣味だったんだ」
姉さん、と甘える口調ではないところにも、ひしひしとプレッシャーを感じた。
(なんだろう。自分は歴代彼女がたくさんいたはずなのに、理不尽な気がする)
責められるいわれはないはずなのに、と思いながら凛もグラスを傾けて中身を飲み干した。
ボトルでオーダーしていたので、店員の動きを待つまでもなく昴に注がれてしまう。
「それで。なんでまた年下が良いってなったの?」
言葉の端々に棘を感じつつ、凛はムッとして言い返した。
「べつに、年下だからどうというわけじゃなくて。良いひとだったから」
「良いひとって何? 俺、凛に半端な男と付き合って欲しくないんだけど。相手、俺より良い男?」
グラスを持ち上げて、一口、二口とちびちび飲んでいた凛は堪りかねて「あのね」と言った。
「昴、さすがにそれはナルシストだと思うよ。『俺より良い男?』って、普通そんなことなかなか言えない……。姉としてそれはあんまり良くないと思うんだな」
酩酊するほど飲んだつもりもなかったのに、カッとして血の巡りでも良くなったのか、全身が熱い。
気付いて、凛はグラスをカウンター上に戻す。
これ以上はまずい、と理性が働く。
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