【本編2-4】弟の嫉妬(3)

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【本編2-4】弟の嫉妬(3)

 佐伯さん。  凛と昴が、同時に振り返る。 「あ、やっぱり佐伯さんだ。どうかなって思ったんですけど、気付いたから声かけちゃいましたー」  薄暗い店内でも目に鮮やかな、白のセットアップのツーピースを身に着けた若い女性が笑顔で近づいてくる。 (市川さん)  隣の部署の後輩で、話す機会もこれまで何度かあった。  時任と一緒のレクリエーションの参加権を譲って欲しいと頼まれたこともある。そのときは、「『御曹司』が好きなのかな」と思っていたが、今日は男性連れだった。  腕が触れあうほどに寄り添ったその相手を見て、凛は軽く目を見開いた。 「上条(かみじょう)くん」  同期の男性社員。仕事上では仲が良いが、プライベートの話はあまりしたことがなかった。  雰囲気的に、二人はカップルに見える。 (恋人同士? 付き合ってるのかな?)  なにぶんその手の話題に疎い自信があるので、自分が知る頃には周りが全員知っているなど、いつものこと。意外とも思わなかったが、わざわざ声をかけてきたことには少し驚いた。  一方、眉のくっきりした男っぽい顔立ちで、体格もがっしりとして背も高い上条もまた、何やら驚いた様子で座ったままの凛を見下ろしてきている。  凛の横で、昴がすっと席を立った。その動きにならうように、凛も慌てて立ち上がる。  酔っていたせいか足元がぐらつき、つまずきかけた。  昴が横から腕を伸ばしてきて、さっと腰を支えるようにしながら、抱き寄せられる。女性を扱い慣れた男性のごく自然な仕草で、ごく微かに香水の爽やかな香りも感じた。弟とわかっていてもドキっとしてしまう。
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