【本編2-4】弟の嫉妬(3)

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「佐伯さんって男の噂聞かないから、びっくりした。似ているけど違うひとかと。あ、悪い、失礼。佐伯さんとは会社の同期で上条と言います。名刺……」  上条は、昴に視線を向け、ジャケットの内ポケットに手を入れた。昴は凛を支える腕をさりげなく外しつつ、にこりと如才なく笑って、軽く手を上げて制した。 「プライベートなのでお気遣いなく。というのは建前で、ごめんなさい、いま名刺を切らしていて」  名刺交換は結構です、と先手を打った形だ。  今この場で、昴は彼らに名前も勤め先も知られていないが、敢えて教える気もないらしい。  凛は「弟です」と言おうとしたが、一瞬躊躇う。  後輩女性、市川の存在。男性連れであれば「紹介してください」と言われることもないとは思うのだが、以前時任の参加するレクリエーションを譲って欲しいと懇願されたのがひっかかっていた。  ただでさえ目立つ昴のこと、姉とわかれば接点を作って欲しいと頼まれてきたこともこれまで数知れず。彼氏と勘違いされた場合は、敢えて訂正もせずに流して来たことも多い。 「俺は凛から会社の話を聞く機会があまりないんですが、『同期』ですか。いつも凛がお世話になっていると思います。今後ともどうぞよろしくお願いします」  昴は唇に上品な笑みを浮かべながら、軽く会釈をする。  市川が、目を輝かせたのがわかった。自分の彼氏ではなくとも、単純に昴が「目の保養」になる男であることは間違いない。 (弟って言いづらいな……。明日会社で噂になっても……)  いつも通り、嘘はつかないとしても、聞かれるまでは勘違いのままにしておこう、と思ってしまった。  このとき。
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