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重大な思い違いをしていることに、凛は気付かなかった。酔っていて、少しばかり頭の回転が鈍っていたせいもある。
昴を凛の弟と知らない彼らが、これまで男の噂のなかった凛の「彼氏」と昴のことを誤解していること。そのことに対して口留めもしなかったこと。
それが、どんな形で社内に広まっていくのか。
「邪魔してすみません。ごゆっくりどうぞ。行こう」
上条が気を利かせ、市川を促しながらその場を去った。
同僚と遭遇イベント終了、とばかりに凛と昴は椅子に座り直す。
なんとなく、唇を湿らす程度にコーヒーを飲もうとしたらカップが空になっていて、グラスの水を飲んだ。
「凛、そろそろお店出ようか。結構酔っているみたいだから、家まで送るよ」
「大丈夫。昴は全然逆方向だしそういうわけにはいかないよ。いいって」
突然の昴からの申し出に凛は焦ったが、身体ごと向き直ってきた昴ににこにこと微笑みながら言われてしまった。
「誘ったの俺だし、無事を見届けないと心配だから。彼女だったらホテルに誘うところだけど、そういうわけにもいかないし。遠慮しないで送られてよ」
そこまで言われてしまうと、いつまでも突っぱねるのも、と思ってしまい最終的には了承することとなった。
男性とはいえ、かつては一緒の家で暮らしていた双子の弟。警戒するようなことは何もない。
凛もつられて微笑みながら言った。
「ありがとう。お願いします」
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