【本編2-5】痕

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「うん。あの……、お店で同期と後輩に会ったけど、完全に昴のことを彼氏だと勘違いしていたと思うし。誰にも言ってないから。というか、私は社内恋愛なんて極力秘密にするものだと思っていたから、今日はあの組み合わせから話しかけられて焦っちゃった」 「それは、凛が言いふらすタイプじゃないからじゃない? 噂話しなさそう。それか、もう結婚秒読みでいつバレてもいいか」  左右にキッチンとユニットバスのある短い廊下を通り抜け、部屋の灯りをつける。 「なんだかまだ酔いが残っているみたい。お茶でもいれようか」  ここまで気を張って来たが、家に帰りついた実感に安堵した途端、足から力が抜けかけた。 「凛の家ならどこに何があるかわかりそうだな。座ってなよ、俺はそこまで酔ってないから」  小さな流しのあるキッチンの前で立ち止まった昴が、ガスフードについているライトのスイッチを押す。部屋の中から、ほのかな灯りを見つつ、凛は両手で顔を覆った。 「ああもう、なんでこんなに酔ったんだろう。体調悪いのかな。ごめんね、昴。いろいろありがとう」 (身内だから甘えちゃってると思う。今日はいらないことも言ってるし、昴を傷つけているし、どうかしてる)  半端な男と付き合って欲しくないと言われたときには、相手を何も知らないのにそこまで口出ししなくてもと反発を覚えたものの。  家まで律儀に送ってくれた昴はいつも通りの優しくて頼りになる弟で、怒りなんかもうどこにもない。  もう大人同士なのだし、もっと適切な距離感があるのではと薄々感じつつ、「双子」だからと言い訳してすがってしまう。
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