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凛は、ふらつく足でベッドに歩み寄ると、その場に膝をついて上半身だけ倒れこんだ。着替えたり顔を洗ったりというのも億劫。
ほんの少しのつもりで、目を閉じた。
「……凛?」
昴がどこかで名前を呼んでいる。
遠いのか近いのかわからない。
「眠かったのかな。そんな中途半端なところじゃなくて、ちゃんと寝ないと」
声とともに、体を抱き上げられる感覚。
(目を開けないと)
そんなことされている場合じゃない、と思うのに泥のような眠りにとらわれかけていて身動きができない。
「普段は警戒心強いのに、俺の前でだけは本当に無防備。子どもの頃から全然変わらないよね。それで彼氏がいるだなんて言われても……。凛の警戒心を突き崩したのはどんな男なんだろう」
すごく近いところに昴の気配がある。
さすがにまずい、と胸の奥で警鐘が鳴る。近すぎる気がする。弟とはいえ男性であって、「彼氏」がいる女が許していい距離ではないような――
心とは裏腹に、意識は急速に沈んでいく。
完全に落ちる寸前。
体の上に、人の重みを感じた気がした。
なんだろう、と思った次の瞬間首筋にちくりと痛みが走る。
(痛い?)
思わず瞼をこじあけそうなくらい、長く鋭い痛み。何が。
「おやすみ。ゆっくり寝なよ。朝までついていてあげるから」
もう少しで目が開けられると思ったところで、瞼の上に大きな掌を置かれてしまった。
抵抗しようと腕を持ち上げたものの、中途半端な位置で止まり、ぱたりと力なく落ちた。
そこで凛の意識は途絶えた。
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