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【本編2-6】疑惑のキスマークと、彼氏の嫉妬
出社早々出会った上条の、不思議な反応。
「佐伯さん、ちょっと」
入口で顔を合わせて、目配せをされる。
受付の前を通過してエレベーターには向かわず、時間的にさほど人の気配もないラウンジスペースに移動を促された。
(なんだろう)
昨日の話かな? と思いながらひとまずついていくと、応接セットを囲むように置かれた背の高い観葉植物の影で上条が振り返った。
「ここ」
指で示しているのは自分の首。
意味が分からず、凛が反応しそびれていると、苦笑と溜息まじりに言われる。
「キスマーク。うまく隠さないと。見えてる」
「キ……」
凛は自分の首に手を当てながら、理解できずに目を見開いて上条を見上げた。
上条はといえば、笑みを深めていて、どこか楽し気に続ける。
「彼氏。モデルか俳優じゃないかって昨日、連れが……彼女、市川さん。同じ会社だしさすがに知っていると思うけど。確認してみようってそっちに声をかけに行ってしまって。驚かせて悪かった」
やっぱり付き合っているんだ、と思いつつ、凛は今こそ勘違いを訂正しようと曖昧に微笑んで言った。
「あの、あの人は彼氏というか」
上条、と離れた位置から声がかかる。背が高いので、観葉植物に隠れきらなかったのだろう。
ちらりと声の方へ顔を向け「おはようございます!」と上条が声を張り上げた。明らかに運動部で鍛えたと思しき見事な発声で、凛の声などかき消されてしまう。
「課長だ。行く、じゃあな。彼氏の話はまた今度。ここだけ気をつけて」
クスッと笑いながら、上条は今一度自分の首を指でトントン、と叩いて踵を返す。
見送ってしまってから、凛は「違うの……」と小さく呟いた。
(鏡、ちゃんと見てなかったけど、虫刺されか何かだと思う)
本日は金曜日。
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