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【本編1-2】戦略的ダメ男
客観的に考えて。
スマホを置き忘れて連絡が取れなくなっている参加者がいることに気付いて、わざわざ待ち合わせ場所まで出向き。
自分のシャツが濡れるのも厭わずに貸してくれて、車にも乗せてくれて。
時任はかなり相当親切である。
車に詳しくない凛から見ても、別段凝った高級車には見えない白の乗用車で、路肩に寄せて時任が開けて来たのは助手席だった。
「濡れているのに、本当にごめんなさい」
言い訳しながら乗り込んで、背を背もたれに触れないように気を付けていたらチラッと視線を向けられた。なんだろう、と見返したら、時任は凛側のヘッドボードに手をかけ、凛の身体ごしに身を乗り出してシートベルトを締めようとしてきた。
「わああ、あの、じ、じぶんで」
「そうですね。シートベルトしてくれないと発車できないので」
さらりと言われて、それもそうだと背をシートに押し付けてシートベルトを締めた。これでもう、助手席はびしょ濡れになってしまった。
やや小降りになってきた道に滑るように車を走らせ「さて、どうしよう」と時任が独り言のように呟いた。
(どうしよう……、どうしようって何? どうしようって、帰る以外に何かあるの?)
「佐伯さん、家どっち方面ですか」
「駅はさくら野です」
「それだと、ここからなら俺の家の方が全然近いですね。服乾かしていきます?」
えーと。
(できればまっすぐ家に送ってほしいんだけど……。時任さん的にはどうなんだろう。服乾かすまで面倒みるから、あとは自分で帰ってって感じ? それなら自分でタクシー拾った方が良くない? あ、だけど濡れたままだと乗車拒否されるかもしれないし……)
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