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心臓が、冗談ではなくドキドキし始めていた。
(連絡がなかったから、自分も連絡しなかったってこと?)
それで直接家まで?
彼氏でなければそのストーキング力に慄くところだ。幸い、事前にやりとりはあったので、まだドン引きまではいっていない。
若干引いてはいる。
「凛さん、開けてもらってもいいですか?」
引いてはいるが、この怒りの源は自分のうっかりミスや曖昧な言動なわけで、話を付ける必要はある。
凛はクッションをベッドの上に置き、スマホを持ったまま玄関に向かった。
「いま、家にいます。開けますね。本当に時任さんなんですよね?」
「そうですよ、いまドアを三回ノックします」
返事とともに、とん、とん、とんとノックの音がした。
とりあえず本物。怖さには変わりないが、凛は鍵を外し、ドアを開けた。
「あの、待ってました。どうぞ」
一瞬の逆光。
顔が見えなかったが、「ありがとうございます」と言いながら時任は玄関に身を滑り込ませてきて、後ろ手で鍵をかけた。
スーツ姿のまま、深緑色のショッピングバッグを持っている。
「それは」
「食べ物とか。三日間部屋から出ないかもしれないので、念のため」
にこりと微笑んできたのはいつも通りの時任のはずなのに、やけに凄みがある。
ショッピングバッグを受け取りながら固まった凛を笑顔のまま見下ろし、時任は目を細めた。
「……ほんとだ。それ、完全にキスマークじゃないですか。おかしいですね。弟と一晩過ごしてそんなものができるわけないですよね?」
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