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【本編2-9】詰問
(目が……怒っています……!)
視線が痛い。首筋をじっと注視してから、さっと足元まで全身を見渡して、もう一度目を覗き込まれた。
威圧感のある長身に見下ろされ、厳しい視線にさらされていると思うだけで胸がどきどきする。
普段の穏やかで優し気なまなざしとは明らかに違う。
獲物の動きをひとつも見逃さないと言わんばかりの鋭さ。
「まず中へ……」
凛が声をかけると、はっきりと頷かれた。
「そうですね。明るいところで見せてもらってもいいですか?」
ミニキッチンやユニットバスで左右が塞がった廊下には、窓が無い。光源は奥の部屋の自然光のみ。
凛は時任に背を向けて、先に立つ。
(背中に視線が刺さる……)
痛い痛いと思いながら、部屋の中に足を踏み入れて、肩越しに振り返った。
その瞬間、強い力で後ろから抱きしめられて、ショッピングバッグを床にどさりと取り落とした。
「こんなの、どう見てもキスマークじゃないですか。弟と過ごしてどうしてそんなことになるんですか?」
耳に低い声が注ぎ込まれる。
「ちがっ……や、痛ッ」
背後から、髪をかきわけて首の後ろを思い切り唇で吸われる。ぎゅうう、と引き攣れるような痛みに悲鳴が上がった。
「時任さん、違うのっ。ほんとに弟でっ」
がっしりとした腕に閉じ込められてしまい、身動きは封じられてしまっている。
「仮に、もし本当に弟だとしても、この部屋で昨日二人で一晩一緒に過ごしたんですよね? 噂になっていましたよ。凄いイケメンだって。近くで見てもモデルか俳優にしか見えないような……、凛さん?」
「はい……?」
うかがうように名前を呼ばれ、恐る恐る返事をする。
「凛さんにずっと彼氏がいなかったのって。もしかして、その弟と何かあるからですか?」
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