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ファーストフードやファミレスに入って乾かすにも、乾くまでは下着が透けているわけで……。
「後で埋め合わせしますのでそれでお願いします。あ……、でもどなたか家に人がいらっしゃいますか?」
社長が家にいたりして?
思いついて焦って尋ねたが、ハンドルに両手をかけたまま前を見ていた時任は、ふっ、と小さく笑みを漏らして言った。
「家出てるんで。ひとりです」
「ああ……」
良かったと思ってから、良かったのかな、一人暮らしの男の家だぞ、との考えがかすめた。
(女に困っている男には見えないし……。ここは彼女の心配もしておくべきだよね)
「彼女とか」
「いません」
即答。
それもまた(そうなのか)と思ってしまったが、赤信号で止まったせいか時任は顔を向けてきて、目を細めて見て来た。
「だいたい、彼女とか、の『とか』ってなんですか。彼氏とかペットとか、そういう周辺情報も含めて聞いてます? いませんけど」
「いないんだ」
思った通りに口に出してしまったのに、一瞬時任は言葉に詰まったように見えた。しかも心なしか眉を寄せた険のある顔でにらみつけられ(別れた直後かな)などと余計なことを考えてしまう。
「佐伯さんこそ。言い訳が必要な男はいないんですか。上条さんとか、東野さんあたりと仲が良いですけど、付き合ってたりは」
覚えのある名前を出されたが、凛は思わず苦笑して「ないない」と言ってしまった。
「東野さんは最初に仕事を教えてくれた先輩だし、上条くんは同期だから、今でも話す機会はあるけど。付き合ったり、なんて考えたこともないなー」
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