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スマホが着信を伝えて、凛は床に座ってベッドに寄りかかったまま、ぼんやりと発信者の名前を見つめる。
佐伯昴
(どうしたんだろう、忘れ物、とか……?)
電話を取るのに躊躇いがあったのは、先程の時任の言葉攻めのせいだけではなく首筋に残る痕のせい。
時任にはどう見てもキスマークと言われてしまったし、凛もその可能性は否定しきれない。しかし理由がわからない。
まさか、よりにもよって嫉妬のはずがない思うものの。
彼氏がいると告げたときの昴の冷たい態度を思い出すと、やや自信がなくなってきてしまう。
「凛さん?」
キッチンで、食べ損ねたお昼と兼用の晩御飯の準備をしていた時任が、部屋に顔を出す。
手土産にした食材ついでに量販店で買ってきていたTシャツとハーフパンツにエプロン姿で。
「スマホ鳴ってません?」
そう言いながら、不審に思ったように歩み寄ってきて、「失礼」と断ってから手元を覗き込んだ。
「昴から……」
「それ、俺が出ていいですか」
「え、それはさすがにびっくりすると思う」
そういうわけにはいかない、と思ったところでさっと時任にスマホを奪われた。
「いずれは挨拶するわけですから。それが今になっただけで。――はい。こんにちは。初めまして時任と申します」
通話にしながら、大丈夫です、というように目配せをくれて時任は話し始めたが。
ちらりと凛に視線をくれてから、スマホを離して言った。
「すみません。ちょっとベランダに出て話します」
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