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時任は軽く首を振ってまとわりつくものを振り払い、きっぱりと宣言した。
「もうあなたを凛さんに近づけさせない。凛さんの彼氏は俺です。たとえあなたが弟だとしても、不埒な目的で凛さんに触れるのは許さない」
電話の向こうでは、くすくすくす、と邪気のない笑い声が聞こえていた。まるで親しい友人と会話していると錯覚しそうになるほど、その声は易々と胸に響く。
ときどきいるのだ、こういう風に簡単にひとの警戒心を突き崩してしまう人間が。
相当気を張っているはずなのに、声を耳にすると魅了されそうになる。
――ねえ、「時任さん」は俺に興味ある? 今度会おうか。
(来た)
必ず来ると思っていた提案。
逃してはならないと、時任は呼吸を整えて慎重に言った。
「凛さんの弟ならいずれ会うとは思っていたけど、そちらがその気ならぜひ。興味はすごくあります。……双子、なんですよね」
顔を合わせた女性社員の証言で、瞬く間に噂が広まったほどのイケメン。
あの凛と血の繋がりがあるのならばいかにもという気はしたが、純粋に興味もある。
今、この短時間の会話の中で、かなり筋金入りの狂気を晒しているくせに、嫌悪感をまったく抱かせないこの声の主の正体に。
やや不自然な間を置いてから、電話の向こうの男は明るく噴き出して言った。
――双子って、凛から聞いたの? 信じてる?
何を言われたのか、一瞬考え込んでしまう。
(信じてる? って。どういうことだ。まさか嘘なのか?)
だとすれば、嘘をついているのは誰で、騙されているのは誰なのか。何の為に?
「そうやって引っ掻き回してどうするつもりですか。血の繋がらない姉弟が一つ屋根の下で育てられて、なんて話、そうそう世の中にあるとは思ってないですよ」
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